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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
1章:こういう出会いも悪くない?
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3話:「駅ビルを歩く」

 昨今流行しているネットショッピングの弊害か、県下ナンバー二の人口を誇っている大山市の玄関口としての役割を果たしていたこの駅ビルにもちらほらと空白地帯が生まれていた。時勢に反して繁盛している店は一階と地下一階に構える座り込みを注意する張り紙で有名なドンキホーテと同じ場所にあることが信じられない有名予備校、そしてドンキ以上に張り紙が必要な高校生御用達のスターバックスくらいしかない。少子高齢化が騒がれる現代において見事に若者向け店舗のみが生き残っているのは面白いが何か傾向でもあるのだろうか。


 それにしても無言で歩き続けている蒲須坂は一体どこを目指しているのか。こんなところにある用なんて俺には少しも想像つかない。


 数年前からずっと閉店セールを実施している洋服店を無視して、老朽化が進んでいるエレベーターに乗り込んだ彼女は、密室空間内に俺の存在を確認すると、その意向などお構いなしに手早く階数指定のボタンを押した。エレベーターは音を立ててすぐに起動する。


「まずはここ」


 扉が開いて眼前に広がるのは見慣れた景色。紙本販売における地域最後の砦という大きな任務を一手に引き受けている蔦屋だった。彼女がここを選択してくるなんて失礼だが、少し意外である。


「詳しいでしょう」


「多少は」


 返答すると、微笑を浮かべた蒲須坂は我先にと店の奥へと歩き出した。店内は改札周辺に集まっていた血気盛んな若者はどこにいったのかと思うくらい人気がなく、独特の落ち着いた雰囲気に包まれていた。


 最近の書店はただ本を売るだけでは生きていけないのか、カフェや雑貨店が併設されていることが多い。ここもその例外ではなく人々を楽しませる様々な工夫が凝らされていた。


 まず目についたのはカフェだった。周囲を温かみのある木材で囲んである小規模なそこは、店内を流れているジャズ系の音楽を聴きながら読書をするのには適している。しかし蒲須坂は興味がないのか見向きもせずに先へと進んでいった。


 カフェの奥にはアウトドアスペースがあった。書店にしては珍しいと、俺は興味から足を止める。しかし、待ち受けていたのは残酷な現実だった。語弊を生まないようにするため事実をありのままに伝えると、そこには適当に飾られた古く安そうなテントと椅子以外目ぼしいものはなにもなかったのだ。思わずため息が漏れる。現場の状況が手に取るように読み取れる。


 大方『ゆ〇キャン』等の影響で昨今流行している野外活動ブームに便乗したのだろう。けれどもそういった商品は専門店に質量とも敵わないためあまり売れることもなく、まるで残骸のように放置されてしまったのだ。要するに俺がアウトドアスペースと勘違いしたここは失敗の象徴でしかない。そのことを証明するかのように、後方で山のように積まれていた折りたたまれた大量の在庫には全品半額という驚きの価格が提示されていた。


 蒲須坂は小説スペースで立ち止まっていた。俺はただでさえ経営が厳しいだろうに店がこの赤字を乗り切れるのかどうかという死活問題について考えながら彼女の方へと移動する。邪念かもしれないが、こればかりはどうしようもなかった。ここが潰れれば近所で最新の紙本を入手できる場所はなくなる。密林は送料がかさむため試し読みしかしない派閥にとって、これは大問題なのだ。少しでも売上に貢献するため、今日は何か一冊購入しようというところまで脳内会議が進んだので俺は蒲須坂に話しかける。彼女はこちらを一瞥すると教室で見たあの不機嫌そうな顔で呟いた。


「頭痛くなりそう」


 何でここに来たんだよと思った。しかし情けないが、俺は彼女に対して強くは出られない。なぜなら再三説明した通りメモ帳の中身をバラされる恐れがあるからだ。あくまで声がデカいから一方的に漏れる形で聞こえてきた国定グループの会話における雰囲気から推測しただけの単なる妄想じみた予想に過ぎないが、俺の知る限りこいつは人の噂話を無闇やたらに広げる奴ではないはずだ。だからこそ、ここで怒らせる意味は尚更ない。


「俺は新作見るの楽しいけど、無理にここいなくてもいいんだぜ」


 そんな棘のないオーソドックスに聞こえる提案をした。けれどもそれは彼女にとって地雷だったようだ。ひらり、蒲須坂は例のメモ帳を取り出して開いてその場で中身を音読する。


「えーっと、何々。人生の誓い……」


「わーわー」


 俺は慌てて声を上げた。何事かと店内にいた少数の人々が揃ってこちらを振り向く。物静かな店内に雑音は良く響いたようだ。恥ずかしいことこの上ない。


 蒲須坂が読んだ部分はメモ帳の冒頭だった。これを語るには一々俺の黒歴史として封印したい記憶ナンバーワンこと中学時代の過去について論じなくてはいけないのでここではその説明は意図的に省略するが、いずれは明らかにしなくてはいけないかもしれない。


「じゃ、オススメ教えてよ」


 それからいくつかの読了済みで説明できるミステリーや恋愛小説を薦めたものの、明らかに気乗りしていなかった。日本の平均的な高校生は本を読まないと言われて久しいが、事態はここまで深刻だとは思わなかった。サンプルがひとりなのでまだ取り返しはつくかもしれない。


読了ありがとうございました。

段々字数が少なくなっているのはご愛嬌を……

そろそろプロットで書いた本質を描けるので今後は字数も増やせそうです。

見直し等一切せずに初稿一発勝負なので矛盾点等あったら申し訳ございません。

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