25話:「暗雲立ち込める」
あれから大きな出来事もなく、時は流れて放課後を迎えた。生徒たちは、遂に到来したGWを一分たりとも無駄にしまいと、足早に各所へ散っていく。大半は部活動。それ以外の帰宅部は束の間の長期休暇へ。三年は受験勉強をしているだろう。彼らの多くは、休み明け襲来する中間テストのことなど全く眼中になかった。今をどう生きるか、こうした刹那的な生き方こそが山前高校生の主流である。
そんな中、俺は数人しかいない教室に残るという選択肢を取っていた。いや、正しくは圧に負けて取らされていた。
「そろそろ始めましょう」
鋭い声に、こちらを睨みつける眼が四つ。それは言うまでもなく、蒲須坂と吉水だった。彼女たちは自分の席から動く気のない俺に呆れて、その周囲にある椅子と机を拝借し、話し合いを始めようとしていた。俺は目を合わせることもなく質問する。
「主題は?」
「今後の対策」
昨夜も聞いた単語。けれどもあの時とは状況が明らかに違っていた。
「具体的には?」
「……」
重苦しい雰囲気が場を支配する。吹奏楽部のチューニング音や体育会系の準備運動における掛け声だけが、春の清々しい空気を静かな教室に届けていた。
やがて、吉水が沈黙を破って声を発する。彼女は最新情報と前置きしてある噂話を語り出した。それは小金井についてのものだった。
「彼女、今日一連の出来事を広められて早々嫌われているみたい」
「え…… それだけ?」
誰でも知っていると言いたいほど薄い内容に、俺は思わずツッコミを入れる。しかし、彼女はそれを無視して話を続けた。どうやらこの話には話すだけの価値があるようだ。
「特に他クラスのヘイトは大変なものよ。しかも、それは多田羅君にまで飛び火している」
多田羅と言われて俺は一瞬ピンと来なかった。暫く考えてそれは確か猿の苗字であることを理解する。
「そりゃそうなるでしょうね」
蒲須坂は伸びをしながらつっけんどんに言った。そして、
「ああ見えても国定は人望の塊よ。さっき手を出さなかったのも恐らくだけど、停学を嫌がってというよりも、所属するサッカー部に迷惑を掛けたくないという意識の方が強かったはず」
と付け足す。その責任感というか何かを利用されちゃったのよねという溜息交じりの独り言にはどこか悲しそうな声色が含まれていた。
また暫く無言の空間が続いていく。今度は感傷に浸っていた蒲須坂の一言で、時計の針が動き出した。
「今後どうなっちゃうんだろうね」
彼女は心ここにあらずという感じで窓の外をぼんやりと見ていた。きっと何か昔のことを考えているのだろう。
「分からない。ただ……」
俺はその後を言いかけて喉奥でぐっとこらえた。今の彼女にこの解は残酷すぎる。けれども、脳裏には何事もないことはないという経験則が浮かんで消えない。
毎度、閲覧・ブクマ・いいね等ありがとうございます。
前にも少し書きましたが、今回は完全に初稿一発勝負をしています。
書き終えた後、加筆など微調整をすることはあっても賞用にカスタマイズしておりません。
ということで、描写が不足しすぎていて想定以上の展開スピードになりそうなので、次回から数話プロットにはない回を挟みます。いわゆる番外編です。
ネタをまとめる時間下さい。すみません。




