22話:「ふたり、帰路にて」
午後六時を回ったことで、一時は険悪な雰囲気さえ纏っていた話し合いはお開きとなり、俺は吉水と共に帰路へと着いた。蒲須坂宅へ来た時には雲ひとつない蒼色の空も、今ではすっかりと茜色の夕景に彩られている。春は陽の入りが早かった。
無人駅に辿り着くと、吉水は冷えたベンチに腰掛けた。次の電車まであと五分。一時間一本の車両なのでこれでも待ち時間は短い方だった。当たり前だがその辺は抜かりない。
それでも立って待つのにはやや長い間でもある。俺は聞きたいことも少しあったので、吉水の横のベンチに座った。
行きの車内で生まれた疑問。どうせ蒲須坂の家で話すだろうと思っていたから、敢えて追求していなかった。けれども結論を述べると、ここに至るまで彼女はそれを話題にしようとしなかった。故に俺はこの場で訊ねる。
「そういえば、来る時の車内でスマホの電源切っていたが、何かあったのか?」
「ちょっとね……」
あの吉水が言い淀んでいた。おそらく何かあったのは間違いないだろう。彼女はスマホを取り出して操作するとこちらに手渡してきた。無造作に個人情報の塊を貸してくれるとは思わず、俺はやましいことなどないのに少し冷や汗を掻いた。
「訊きたいことはこれで大体分かると思うよ」
吉水のiPhoneは定期的に画面を拭いているのか、指紋一つなかった。液晶にはいつか見たクラスLINEが表示されていた。それは最早グループLINEの体を成していなかったが。
「……」
インターネットのアビス、ネット掲示板を彷彿とさせる大荒れの原因はまたも写真だった。そこにあったのは、俺と吉水が話しながら電車に乗るツーショット…… 山前高校の生徒には想像を絶する暇人がいるみたいだ。
「これで私も晴れてみんなの敵という訳」
自嘲気味に語る吉水の横顔には、過ぎたものを懐かしむ大人がよく見せる哀愁が漂っているようにみえた。
俺にはただ黙ってそれを傍観することしかできない。吉水はそんな俺を気遣ってか、あからさまな空元気でこう言う。
「ま、それでもひとりじゃないから良いわ」
その言葉に思わずハッとする。どうやら、俺は彼女の本質を見誤っていたようだ。吉水の信条は「友人のため」。俺はそう考えていた。しかし、彼女の本質はもっと単純だった。「ひとりが嫌」。おそらくそれだけが彼女を生かす動力源なのだろう。
「力になれるとは言わないが、困ったら相談してくれよ」
恥ずかしいが、俺はぼそりと呟いた。吉水はただ微笑んでいるだけでそれ以上の反応はない。
「そんなこと言うんだね……」
数秒後、返ってきた言葉に俺は苦笑いする。確かに性格的には似つかわない台詞であった。けれども、偶にはそんなことを言ってもいいじゃないか。
「そこは頼りにしてるよとか言って欲しかったな」
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ここまでで3章終了予定です。今回は吉水の性格描写を補足するシーンでしたが、急ぎ足で書いていますので土日までに修正をすると思います。さすがに短すぎますので……(と言ってもシナリオ的にはあまり変わらないかと)。
さてさて、話し合いばかりさせて長く作ってきた土台が動き始める予定が4章です。動き始められればいいなぁ(願望)




