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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
3章:それでも人はひとりではいられない
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18話:「蒲須坂の過去」

「私は昔虐められていた」


 少しの沈黙があってようやく開いた口から発せられたのは重みのある単語だった。中学時代にと付け加える蒲須坂の顔はだんだんと青ざめてきており、今にも死にそうである。


「それも暴力寄りの方」


「……」


 苦悶の宿った表情に震える声はこちらを不安にさせて仕方なかった。けれども、彼女なりに勇気を振り絞った告白をみすみす無下にもできない。判断に迷った俺は吉水を一瞥すると、彼女はバツが悪そうに下を向いていた。どうやら既に事情は把握済みらしい。


「経緯は単純。要するにどこにでもある恋愛関係だった。中学時代、私のことを好いてくれた男の子がいた。彼は熱心なアピールをしたものの、結局相手にされなかった。私とは何もかもが合わなかったからね。しかし、彼は諦めが悪く何度も告白を続けた。その様がある女子には気に食わなかったみたいで」


 ……終わったことだしもう根に持ってはいないけど。そう呟く蒲須坂に、その言い回しはまだ根に持っている奴しか使わないと言いたかったが、声には出せなかった。そんな気分にはなれなかったのだ。


彼女の恨み節は続く。


「そこからはお察しの通り。彼女を中心とした集団に色々とされたわ。具体的なことは思い出すだけで気分が悪くなるから省略するとして、まあ酷いものだった。しかも奇妙なことに、私に好意を抱いてくれていた彼までその味方となってるんだからもう笑い話よ」


 自嘲で話し終えたため、俺はどのように切り返すべきか反応に困った。軽口を飛ばせる話題でないにしろ、過剰に気遣うのもまた変である。


微妙な空気の中、先陣を切ったのは吉水だった。先程まで顔色を悪くしていた少女は何処へ。すっかり冷徹極まりない通常の様子に戻っている。


「それで、今の話はどこが今後の対応に繋がるのかしら」


 強い口調だったが、それでも吉水は心なしか蒲須坂には甘い気がした。さすがに彼女でも過去を吐露して自分を追い込んだ人に厳しくはできないらしい。


「……とりあえず、私の過去を知って貰えたからセーフね」


 悩んだ末に蒲須坂が放った結論は答えというよりも、苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。そもそも、レスポンスとして考えれば不自然である。


「本当にそれでいいのか?」


 俺はボソッと呟く。勘違いであったら申し訳ないが、彼女は他にも何か隠しているような気がしたからだ。それについてはまだピンと来ていないが、何であれここまで話したのならば詳細を訊く権利は多少なりともあるだろう。


「それでって何よ」


「分からない。だからこうして聞いている」


「……」


 場の空気がつんざく。そんな意図的に生み出された静寂を壊したのもまた蒲須坂だった。何て説明したらいいか分からないけど。そんな前置きで彼女は淡々と話し始める。


「あの日から私は人を信用できなくなってしまったの。そこに秘めたる暴力性とか野性的な本能…… 獣性とでも言うのかな? そんな性欲なんかも含めた醜悪な感情に対する不快感が今も拭い切れていない」


 そこまで語ったところで蒲須坂は気分が悪いからと立ち上がって席を外した。だんだんと遠ざかる小さい背中はいつか見たそれとは異なり、どこか弱々しく見えた。


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