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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
3章:それでも人はひとりではいられない
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17話:「放課後の非日常」

放課後、携帯の通知があまりにもうるさかったからか吉水は電源を切っていた。


 朽木市を通過する電車は二種類あるが、両方とも一本あたり三〇分以上の待ち時間を擁していた。つまり、極端に本数が少ないため駅のホームには各校の帰宅部が集結しているのが日常となる。当然山前高校二組の生徒も存在しており、そこから密告者が現れたというのが一連の原因である。何かあったら誰かが逐一カメラを構えるとは、本当に嫌な時代となったものだ。しかし、それ以前の記憶は彼らが小学生の頃が終焉であり、日々新しい時代に上書きされてゆくばかりであった。


蒲須坂の家は普段大平下が利用する方向とは真逆である。よって想像よりも早く田舎カラーの短い車両は現れた。乗客はほとんどいない。


「三駅だったはず」


 隣に座った吉水が呟く。田舎あるある。人が集中する電車は一定で、これはその範囲ではなかった。過疎の波は恐ろしい。東京から離れる方面はこれほど分かりやすく人が乗らなくなるのだから。


 異常に長い駅間を経てようやく富田駅に辿り着く。ここが蒲須坂の最寄りらしい。一応私立高校の別校舎があるため、車窓から見える人通りは少なくなかった。しかし、その高校はバスを動かしており、電車利用はごく僅かである。証拠に、古びた木造の駅舎は無人であった。


「こんなところからわざわざ」


 俺は周囲をキョロキョロしながら先を急ぐ吉水に付いていく。彼女に迷いはなかった。


 何度か曲がって一軒家前にやってくる。表札には見慣れた名前が書いてあった。


 ピンポーン。


 何の前触れもなく躊躇せずインターホンを鳴らす吉水。応答はすぐにあった。


「今鍵開けるから待ってて」


 久々聞いた蒲須坂の声だった。彼女はわざわざ玄関扉を開いてこちらを出迎えると、中へ入るように促した。他人の家は慣れていないが、その場に突っ立っているのも不自然なので失礼することにした。


「お邪魔します」


 駐車場に自動車がなかったことから推測してはいたが、彼女の肉親は留守だった。後から聞いたところかなり忙しい共働きらしい。


 俺たちはリビングへ案内されて、そこにあるローテーブル前に座るよう促された。木製のそれは長方形になっており、長細い。彼女はお茶でも持ってくると言い、颯爽とその場を離れている。


「あまり広い家じゃないから」


 遠くから謙遜する蒲須坂の控えめな声は非常に新鮮に思えた。


「とりあえず」


 目の前にカラフルな湯呑で緑茶が三つ置かれた。中身は熱くないのか湯気は全く出ていない。


「「ありがとう」」


 礼を述べる客人二名の声がたまたまハモる。俺らは思わず互いの目を見て静止した。その様子を観察していた招待者はくすりと笑い出す。


「「何がおかしい(の)」」


 偶然の産物でしかないが、再び重複したことで若干一名はとうとう壺に入ってしまったようだ。俺たちはまた互いを見合い、顔を反らす。さすがに二度やるときまずい。


「そろそろ本題いいかしら」


 俺が下を向いたまま動きを見せなかったため、会話の端を発したのは吉水だった。やや上ずった、それでも真剣な表情と声で場を整えにかかる。


「ああ」


 その空気感を保とうと、俺も冷静に返答した。蒲須坂は笑い疲れたのか頷いて対応している。目が充血しているのは気のせいではないらしい。


「さくらは今後どうするの」


 先程までの明るい雰囲気から一変、話題が現実のことに移り変わってひりつく。問題の張本人である蒲須坂の顔にはどこか翳りがあった。


「それより、少しいい?」


「何? 逃げる気ならダメだけど」


 友人だろうが容赦のない吉水の対応に、どこか恐ろしさを感じる。こいつは血の通った人間なのだろうか。しかし、蒲須坂は怯むことなく続けた。


「過去の話がしたいだけ。それを話すことは今後の対応を模索することにも繋がる」


 過去。その単語から俺はメモ帳を連想した。全ての契機となったあの白字で㊙と書かれた黒いそれを。


閲覧、いいね等ありがとうございます。毎度励みになります。

さて、話は動き出したものの未推敲でそのまま投稿しているので文章に不安しかありません。

視点ズレ、誤字・誤用等あったら申し訳ございません。

そして、くれぐれも大雪にはご用心を。

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