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仮題『かさぶたは次なる怪我の下準備』  作者: 中之島 零築
3章:それでも人はひとりではいられない
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16話:「話し合いの末に②」

「そう」


 自ら質問しておいて、その反応は想像以上に薄いものだった。あたかもこちらの答えを予測していたような、あるいは。


「それで? こんなこと聞いておいてどうしたいんだ」


 彼女らしくない回りくどさに違和感を覚えた俺は直接問いかける。吉水は少し下を向いて悩んだかと思えば顔を上げてこう言った。


「ごめん、今のはただの確認。どうしても必要だったから」


 そして、ポケットから本来この時間には起動してはいけないスマホを取り出して見せつけてくる。以前の猿とは違って丁寧に手入れされ傷ひとつない画面には、既読の付いた蒲須坂とのやり取りが表示されていた。そこで吉水と蒲須坂は毎日情報交換をしているようだった。


「こういうこと」


 俺はそれを読みながら、脳裏に数日前の図書準備室での話し合いを思い浮かべる。あの時国定は、蒲須坂は周囲の誰とも連絡すらしていないらしいとか言っていたはずだ。それは嘘であることが確定した。いや、正しくは彼も騙されていたのだろう。人間関係に探りを入れる程くだらないと思っていることはないが、気になって仕方ないので余計なことであるのを自覚しつつ、聞いてみる。


「お前は国定をどう思っているんだ」


「良い人だとは思っているよ。ただ、何ていうか…… 今回の一件では力にならなそうだから頼っていないだけ。彼はみんなに優しいから」


 本意だからか、間髪入れずに回答が返ってきた。そして、こちらの思考なんてお見通しとでも言わんばかりに、


「あなただけが他人のことをしっかりと考えているなんて思い上がらないことね」


 と忠告を付け加えてくる。確かに、何事でも相手も生きている人なのだから必ず何か考えているという視点はよく俺から抜け落ちていた。それは圧倒的な自分本位さから来るものなのだろうが、こんな短時間でそんなところまで見透かされているとは末恐ろしい。


「何はともあれ。そういうことだから、今は国定君よりもあなたのことを信用しているわ。情報源はさくらだけでしかないけれど、彼女が言うのならばきっとそうなのだから」


 私はこんな非社交的な男信用し切れていないけれど。ぼやきつつこちらを睨む吉水。危うく忘れかけていたが、彼女の行動原理は友人のためである。


「それで、ここからが本題」


 彼女は俺に蒲須坂の自宅まで行くように提案してきた。何でも、電話をした際に俺を連れてくれと頼まれたとか。理由は聞いていないが、確かに言われたらしい。


「LINEには書いてなかったが」


「LINEは何かの不手際で流出する可能性があるからわざわざ口頭で伝えたのよ。私にだけ唯一電話してきたのに、流出の可能性を考慮しているとは信頼されているのかどうかよく分からないけれど」


 吉水は少し不満そうだった。しかし、俺にはそんなことよりも別の問題がある。


「どうして俺なんかを」


 確かに今回の騒動では中心人物に成り果てている。しかし所詮はただのぼっちだ。仮に俺の説得を経て蒲須坂が再復帰したところでその後の国定との対立は避けられない。


「それは、あなたが信用されているからではないの」


 信用という言葉に俺は再び動揺を隠せなかった。いくら何でもおかしすぎる。たった数日の関係がグループのそれを上回るなんて普通に考えたらありえない。


「あの子、普通じゃないから」


 呟く吉水はなぜか全て分かりきった気でいた。俺はそんな彼女に最大の疑問を叩きつける。それは、今後の日常を占うものだった。


「で、お前はどうするんだ。このままだと間違いなく国定と対立するぞ」


「構わないわ。私小金井さん嫌いだもの」


 呆気ない返事。ここで国定グループの崩壊は決定的になった。


毎度ご閲覧ありがとうございます。 3章のオチは決めているのに迷走しております……

こういう繋ぎこそが一番難しくて面白いが果たして。

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