14話:「変わりゆく日常」
結局、数日経っても蒲須坂が登校してくる様子は見られなかった。最初は気にかけていたクラスメイトも一人、またひとり彼女の話題を口にしなくなっていく。俺への陰湿な嫌がらせもすっかりと鳴りを潜め、蒲須坂のいない日常が当たり前のものになっていた。
そんな違和感にも人間特有の適応力で慣れてきてしまった今日、山前高校を席巻しているのは突如明らかになった国定の熱愛だった。気になるお相手は姦し組の片割れ。理科室で絡んできた方ではない小金井という奴だった。彼女に関する情報はあまり所持していなかったが、あの写真をクラスLINEにバラまいた張本人であることだけは知っていた。その理由は単純。昨日、口の軽い猿が何も考えずにベラベラとしゃべっていたからである。
「どういうこと!」
現在時刻は二限の休み時間。衝撃的なニュースが流れてきた今朝からずっと授業中以外は国定を問い詰めている生徒がいた。名を吉水リコという。彼女は国定グループの中心メンバーであると共に、クラスの副委員長も兼任している。そして、蒲須坂の友人でもあった。
横で何か喚き散らしている小金井なんか気に留めず、鬼気迫る表情で訴えている様子からは情の深さを感じ取れる。
「さくらがこのことを知ったらどう思うのか、あなたはしっかりと考えたの?」
「話しかけないで、国定君は私の彼氏よ」
「考えたさ、その結果がこれだ」
三者三様の発言に周囲でざわつく野次馬も相まって教室は一種のパニック状態となっていた。俺は当事者であるにも関わらず、蚊帳の外で成り行きを見守ること以外何もできない。巻き込まれたらそれはそれで面倒なのでまあ良いけれど。
しかし、何もなければ確実に後が怖かった。なぜなら、舌戦の中心で二人相手に大立ち回りを演じている同級生の次なる矛先は間違いなく俺だから。
「考えた? 冗談も大概にしなさいよ」
「無視しないで、吉水さん」
「根拠も聞かずに冗談と決めつける方が大概だ」
「無視しないでー」
とうとう小金井が泣き出して、場の雰囲気は混沌を極める。けれども、吉水は表情ひとつ変えることもなく追求の手も緩めない。
「じゃあ根拠を教えなさいよ」
「それは……」
俺は言い淀む国定を直視できず、つい窓辺に視線を移した。
「こうすれば、上手くいくはずなんだ」
「答えになってない!」
哀れ、彼の理想は高すぎたのだ。それだから肥大なるエゴであると俺は考えていた。何かを守るのには何かを犠牲にしなければならない。故に人付き合いの代償はとても大きい。
相変わらずの遅筆で申し訳ございません。2章のタイトル回収です。




