捜査と賭博と激突――6
男たちをピースメーカーの本部に運んだのち、尋問が行われた。
尋問の末、男たちが情報を明かしたのは、翌日の昼前だった。
俺たちとピースメーカーは準備を整え、その日の午後、ヘルブレアの本拠地へと向かった。
「まさか、こんなところにあるなんて思ってもみなかったッスネ」
苦虫を噛み潰したよう顔でウォルスが独りごちる。
気持ちはわからないでもない。ヘルブレアの本拠地は、パンデム東部にぽつんと立つ教会。その地下にあったのだから。
ヘルブレアという、悪意のるつぼのような組織が、善意の象徴たる教会にあろうなど、誰が想像できようか?
いや、だからこそ、ヘルブレアは教会を本拠地に選んだのだろう。『犯罪組織の本拠地が教会にあるはずがない』という思考の盲点を、やつらは突いたのだ。
「気づけないのも無理はないだろう、ウォルス」
「たしかにそうなんスけど、やっぱりモヤモヤするッスヨ」
「ならば今日、その鬱憤を晴らせばいいではないか」
俺が指摘すると、ウォルスはパチパチと瞬きをして、にやっと好戦的な笑みを浮かべる。
「それもそうッスネ。今日でヘルブレアはお仕舞いッス」
ウォルスが教会の扉を開けた。
扉が開く音が聞こえたのだろう。教会の奥から、三〇代と思しき男性神父がやってくる。
五〇名以上の団員を引き連れたウォルスを目にして、一瞬、神父の顔が強張った。
動揺を隠すように笑みを繕い、神父が尋ねてくる。
「随分と大所帯ですネ。今日はどのようなご用件でしょうカ?」
「単刀直入に訊きまス。あなたはヘルブレアと繋がっていますネ?」
神父の笑みが引きつった。
「そ、そのようなことがあるはずないではありませんカ」
「ごまかさないほうがいいッスヨ。ほかでもないヘルブレアのメンバーが、ここに本拠地があると明かしたんスかラ」
ウォルスが険のある声つきで通告すると、神父は瞠目し――
「くっ……!」
祭服の袖から魔銃を取り出して、ウォルスに銃口を向けた。
神父が引き金を絞る――直前。
「せあっ!」
ウォルスが神父の腕を蹴り上げる。
「ぐぅっ!」と神父がうめき、蹴り上げられたことで教会の天井に向けられた銃口から、火球が撃ち出された。
火球が天井に炸裂し、爆音が轟く。
その爆音に負けない声で神父が叫んだ。
「敵襲! 敵襲でス!」
神父の知らせに、教会の奥から黒服の男たちが現れる。
十中八九、彼らはヘルブレアのメンバーだろう。
男たちは俺たちを見るやいなや懐から魔銃を取り出し、構えた。
ウォルスが目を鋭く細め、団員たちに指示を出す。
「応戦するッスヨ!」
団員たちのうち、魔銃を携える者がそれを抜き、構えた。
「「撃テエェエエエエエエエエエエッ!」」
ヘルブレアのメンバーとウォルスの号令が重なる。
両陣営の魔銃が火を噴いた。
火球が、氷弾が、雷閃が、宙に無数の軌跡を描く。
それぞれの攻撃が空中で衝突した。
爆炎。
轟音。
魔法攻撃の相殺により、煙幕が立ちこめる。
「ふっ!」
もうもうと立ちこめる煙を突き破り、短剣型の魔剣『スラッシャー』を握ったティファニーが切り込む。
魔剣の加速効果により常人ならざる速度で迫ってきたティファニーに、ヘルブレアの足並みが乱れた。
その一瞬を俺は見逃さない。
「行くぞ、セシリア!」
「はい!」
俺とセシリアは疾風を用い、ヘルブレアのメンバーたちをかいくぐるようにして、教会の奥へと走り抜ける。
ピースメーカーの団員たちと共闘するエミィが声を張り上げた。
「イサムさん、セシリアちゃん、気をつけて!」
「うむ!」
「行ってきます!」
エミィに答え、俺とセシリアは、祭壇の裏にあった隠し階段を駆け下りていった。




