捜査と賭博と激突――5
深夜二時。草木も眠る丑三つ時。
スイートルームの個室にあるふたつのベッド。そこにセシリアとエミィが横たわっていた。
ふたりのまぶたは伏せられ、すぅ、すぅ、と穏やかな呼吸が繰り返されている。
室内は静まりかえり、聞こえるのはふたりの呼吸だけ。
そんな一室のドアが、音もなく開けられた。
室内に入ってきたのは三人の男。いずれの手にもナイフが握られている。
男たちは音も立てずにベッドに忍び寄り、横になっているセシリアを見下ろす。
男たちが頷き合い、そのうちのひとりがナイフを振りかざした。
男のナイフが振り下ろされる――まさにそのとき。
ヒタリ
男の首筋に、スイートルームに備え付けられているペティナイフがあてがわれた。
男とその仲間たちが目を剥く。
「覚悟はあるか?」
落ち着いた、しかし、怒りを孕んだ声がした。
声の主は、男たちの背後にいつの間にか立っていた。
「命を捨てる用意はしてきたか?」
声の主――イサムは、手にしているペティナイフよりも鋭い眼差しで告げる。
「俺は、その子に手を出す者をなにがあっても許さんと決めている」
首筋にペティナイフをあてがわれている男が息をのむ。
男を助けようと、ふたりの仲間がイサムに向き直った。
瞬間。
「はあっ!」
ベッドに横たわっていたセシリアが跳ね起きて、イサムに向き直った、ふたりのうちのひとりの背に、強烈な蹴りを食らわせる。
どうやらセシリアは寝たふりをしていたらしい。
セシリアに襲撃されるとは思ってもいなかったのか、男は受け身もとれず床に倒れる。
セシリアは素早い動きで男の背にまたがり、首に腕を回して締め上げた。
セシリアの拘束から抜け出そうと男がもがく。
びくともしない。
どれだけもがこうと、男が拘束から逃れることはかなわなかった。
おそらく、セシリアは膂力を上昇させる武技『剛』を使っているのだろう。
女性のものとは思えないほどの怪力に、拘束された男が目を白黒させる。
だが、彼らもやられっぱなしではない。
首筋にペティナイフをあてがわれている男が、ナイフを逆手に握り直し、イサムを刺し貫こうとする。
無駄だった。
男が動いた瞬間、イサムの腕が男の手首をつかんでいた。
「言ったはずだ。許さんとな」
イサムが男の手首をひねる。
痛みに耐えかねた男が絶叫し、ひねられた手からナイフがこぼれた。
残るはひとり。
ただひとり無事な男はイサムから跳び退り、懐に手を入れた。
このままではやられると悟ったのだろう。取り出された手には魔銃が握られている。
男が魔銃の銃口をイサムに向けた。
「やあぁああああっ!」
気合一声。
ベッドから小さな影が飛び出した。
エミィだ。
完全に意識の外だったのだろう。男はエミィのタックルをまともに食らい、背中から床に倒れた。
男がうめき、魔銃をエミィに向ける。
しかし、その行動はイサムの怒りを買うだけだった。
「疾っ!」
イサムが投擲したペティナイフが、魔銃を構える腕に突き刺さる。
男の絶叫が室内に響き渡った。
「ありがとうございます、エミィちゃん」
男のひとりを気絶させ終えたセシリアが、エミィに駆け寄り、礼を言う。
「ううん。友達を助けるのは、当然」
エミィがはにかみ、セシリアが嬉しそうに目を細めた。
「さて。これで仕舞いか」
小さく吐息しながら、イサムが残りふたりの首に手刀を叩き込んで意識を刈り取る。
イサムの言葉通り、三人の男はピクリとも動かない。襲撃は防がれた。
それは同時に、イサムたちの囮作戦が成功したことを意味する。
「あとは、ホテル付近に待機しているピースメーカーに連絡を入れ、この者たちを本部まで運ぶだけだ」
イサムたちを襲撃した三人の男は、当然ながらヘルブレアのメンバーだろう。
すなわち、イサムたちは手に入れたのだ。
ヘルブレアの本拠地にたどり着くための手がかりを。




