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捜査と賭博と激突――4

 俺たちが招待されたスイートルームは、『(ぜい)()くした』との表現がふさわしい内装だった。


 部屋数は八つ。四つの個室に、リビング、ダイニング、浴室、キッチンまで備え付けられている。


 リビングに並んだ家具は見るからに上等で、高級そうな(つぼ)絵画(かいが)まで飾られていた。


成金趣味(なりきんしゅみ)と言えばそれまでだが、たまにはこのような豪奢(ごうしゃ)な宿も悪くない」

「そ、そうですね」

「ちょ、ちょっと、落ち着かないけど」


 平然としている俺とは異なり、セシリアとエミィはギクシャクとの擬音(ぎおん)が似合うほど緊張している。


 俺は苦笑した。


「いまから緊張していては気疲(きづか)れしてしまうぞ?」

「で、ですが、わたしたちはこれから命を狙われるわけですから……」

「う、うん。どうしても身構えちゃう」


 眉を『八』の字にするセシリアとエミィ。


 もう一度苦笑して、俺は提案する。


「ならば、セシリアがいいものを持っているではないか」

「わたしが、ですか? いいもの、ですか?」


 小首をかしげるセシリアに、俺は「うむ」と頷いた。


「パンデムに向かう途中、トランプで遊んだだろう? またやろう。遊んでいれば気が(まぎ)れるだろうからな」


 もちろん、


「チップも賭けもなしだ。賭け事はカジノで充分だからな」





「……これ!」

「あっ!」


 二枚あるセシリアの手札。そのうちの一枚をエミィが引く。


 引いたトランプの絵柄(えがら)を見て、エミィが口角を上げた。


「あがり」

「ま、負けました……」


 エミィがピースサインを作り、セシリアがリビングのテーブルに突っ伏す。


 俺たちがやっているのは、魔導機関車内で遊んだのと同じくババ抜き。かれこれ三〇分ほど興じており、セシリアとエミィの緊張も()けたようだった。


「もう一回! もう一回です!」

「うん。いいよ」

「ああ、俺もだ」


 意外に負けず嫌いらしい、セシリアの必死な様子に、俺とエミィは笑みを()らす。


 次のゲームを行うべく、俺はトランプを集めてシャッフルした。


「こんなに楽しいの、はじめてだな」


 心からそう感じているような声色で、エミィがポツリと(つぶや)く。


「はじめて、ですか?」

「うん。あたし、人付き合いが苦手で、友達いないから」


 セシリアの問いに答えるエミィは、切なげな微笑みを浮かべていた。


 エミィの言葉を受けたセシリアは、「でしたら」と真剣な眼差しをする。


「わたしを友達第一号にしてくれませんか?」

「え?」


 面食(めんく)らったように目を丸くして、エミィが苦笑した。


「同情しなくてもいいよ」

「同情なんかじゃありません。もちろん、(あわ)れんでもいません」


 自虐(じぎゃく)するエミィをまっすぐ見つめ、セシリアが思いを伝える。


「わたしはデュラム家を再隆盛(さいりゅうせい)させるために頑張っています。ですから、親孝行(おやこうこう)のために努力しているエミィさんに親近感を覚えているんです」


 それに、


「エミィさんは、わたしとイサム様を心配してダウジング・アミュレットを用意してくれました。そんな、健気(けなげ)で優しいエミィさんと、もっと仲良くなりたいんです」


 そこまで言って、「……だめでしょうか?」と、セシリアが不安そうに眉を寝かせる。


 セシリアの思いを聞いたエミィは黙り込み――


 ポロリ


 ヘマタイトのような灰色の瞳から、透明な(しずく)をこぼした。


 セシリアがギョッとする。


「ど、どうしたんですか!? 泣くほど嫌だったんですか!?」

「ち、違う! そうじゃないの!」


 オロオロするセシリアに、エミィがブンブンと両手を振り、シャツの(すそ)で涙を拭う。


「これは、嬉し泣き」

「じゃあ……!」

「うん」


 期待に顔を輝かせるセシリアに、エミィが片手を差し出した。


「お友達になってくれますか? ()()()()()()()

「もちろんです! ()()()()()()!」


 差し出された手をセシリアがとり、ふたりが笑みを()わし合う。


 微笑ましいふたりの様子に俺も頬を緩める。


 ただ、ひとつだけ気になることがあった。


 エミィの笑顔から、どこかほろ苦さを感じるのだが……気のせいだろうか?

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