友の子孫と子孫の事情――4
翌朝。パンデムの外れにある草原に、俺とセシリアは来ていた。
もちろん、鍛錬のためだ。
「セイバー・レイの切れ味は素晴らしい。が、限界がある」
「オアー・ドラゴンの鱗には歯が立ちませんでしたしね」
パンデムへ向かう途中で、俺たちはオアー・ドラゴンに遭遇した。セシリアはオアー・ドラゴンの脚を切断しようとしたが、最硬と称される鱗に阻まれてしまった。
あのときのことを思い出したのか、セシリアがシュンとする。
「ならばこそ、さらなる切れ味を求めるべきだろう」
セシリアを励ますために頭をポンポンと撫でながら、俺は鍛錬の内容を告げた。
「今日から『錬』の修得に入る」
魂力を武具にまとわせ、威力・耐久力を上げる武技『錬』。錬を修得すれば、オアー・ドラゴンの鱗さえ軽々と断てるようになるだろう。
「セシリアはすでに四つの武技を修めている。魂力の扱いには慣れているだろう。武技にまとわせることもできるはずだ」
「はい! やってみます!」
元気を取り戻したセシリアがギュッと拳を握り、木剣を構えた。
セシリアがまぶたを閉じ、ゆっくりと呼吸する。セシリアの体から魂力が溢れ出し、木剣へ移動していった。
やはりセシリアのセンスは驚異的だ。魂力を手足のように扱っている。まったくもって末恐ろしい。
俺が感心するなか、セシリアの構える木剣が魂力をまとった。
「できました!」
「うむ。では、俺の木刀を断ってみよ」
俺は木刀を中段に構える。
「この木刀には俺の魂力が流し込まれ、鉄と同等の強度になっている。セシリアの錬が成功していれば、その木剣でも断てるはずだ」
「はい!」
セシリアがキリリと眉を上げ、木刀を見据えた。
ふっ、と鋭く息を吐くとともに、セシリアが木剣を振り上げる。
「はぁああああああっ!!」
力強い踏み込み。
裂帛の気合。
セシリアが袈裟斬りを放った。
木剣が木刀を打ち据える。
草原に炸裂音が響いた。
剣戟の木霊が収まる。
木刀には傷ひとつついてなかった。
セシリアが肩を落とす。
「失敗ですか……」
「失敗ではあるが、魂力は充分にまとわせられている。足りないのはイメージだな」
「イメージ?」
首を傾げるセシリアに、俺は問題を出すように指を立てる。
「錬は武具を強化する武技。剣を強化するとなると、なにが求められる?」
セシリアが黙考し、答えた。
「切断力です」
「正解だ。となれば、切断力が上がるようなイメージをすればいい。具体的には、魂力によって刃が研ぎ澄まされる様を思い浮かべるのだ」
「やってみます!」
俺のアドバイスを受け、セシリアが再びまぶたを閉じる。
そんな俺たちの様子を眺める者が、ひとりいた。
エミィだ。
「イサムさん、本当に過去から来たんだ」
エミィが目を丸くする。
エミィには、俺が過去から飛ばされてきたこと、俺が勇者パーティーの一員であったことを知らせてある。
半信半疑だったようだが、失われた戦闘術である武技を用いたこと、武技をセシリアに教授していることで、俺の話が真実だと悟ったようだ。
「えっと……イサム様って呼んだほうが……あ、お呼びしたほうが、いい? ……ですか?」
慌てて敬語を使おうとするエミィに、俺は思わず吹き出す。
「かしこまらずともいい。無理をさせるのは心苦しいのでな」
敬語が苦手らしいエミィはパチクリと瞬きをして――
「ありがとう」
安堵の息をつき、頬を緩めた。




