デートと討伐と邂逅――13
「ああ、そうかヨ」
「忠告はしたゼ?」
直後、男たちの双眸に狂気が宿る。
腰に佩いた魔剣を男たちが抜いた。
少女が瞠目する。周囲の人々が悲鳴を上げる。
男たちが魔剣を振りかぶった。
「殺しはしねぇヨ!」
「消えねぇ傷はできるだろうがナァ!」
少女が「くっ!」と呻き、腰の魔銃に手を伸ばす。
間に合わない。
少女が魔銃を構えるより早く、男たちの凶刃が襲いかかった。
「セシリア!」
「はい!」
以心伝心。
俺が呼びかけたとき、セシリアはすでに駆けだしていた。
金色の風が征く。
金色の風が吹く。
斬音。
男たちの魔剣が振り下ろされた。
しかし。
二振りの魔剣は、半ばから斬り落とされていた。
「「…………ハ?」」
男たちが間の抜けた声を漏らす。
なにが起きたのかわからないと言いたげに、男たちはセシリアに切断された魔剣を呆けたように眺めていた。
「俺からもチャンスをやろう」
少女と男たちのあいだに瞬時に割り込んだ俺は、放心状態の男たちに刀の切っ先を突きつける。
男たちが視線を上げ、化生を目の当たりにしたかのように顔を青ざめさせた。
なんの前触れもなく、目前に俺が現れたからだろう。
己に向けられた眼差しが、永久凍土より冷たく、槍の穂先より鋭かったからだろう。
「いますぐ立ち去り二度と現れるな。二度と暴行を働くな。さすれば許してやろう」
俺は憤りを叩きつける。
「さもなくば、斬る」
「ヒ……ッ!!」
「ヒィッ!!」
男たちの手から、破壊された魔剣がこぼれ落ちる。魔剣の残骸が地面に落ち、カラン、と乾いた音を立てた。
必死の形相で男たちが逃げ出した。まるで死神に追われているかの如く。神仏に助けを請うかの如く。
男たちの願いは叶わなかった。
「確保――――っ!!」
男たちが逃げていく方向から、魔導兵装を装備した集団がやってきたからだ。
いずれも白い服をまとったその集団は、瞬く間に男たちを捕らえ、地面にねじ伏せる。
ねじ伏せられた男たちは、いまだに俺への恐怖が拭えないらしく、抵抗もできずにガチガチと歯を鳴らしていた。
「この白服の者たちは警察だろうか?」
「三つある自警団のひとつかもしれませんよ?」
男たちを無力化した俺とセシリアは、捕り物劇を眺めて目を瞬かせる。
白服の集団は男たちに手錠を嵌め、連行していった。
白服集団のひとり、この場に残った三〇過ぎと思しき男性が、男たちに立ち向かった少女に駆け寄る。
「ご無事ですカ、お嬢!」
「お、お嬢っていうの、やめて」
「それはできませン! 自分、団長にドヤされたくありませんのデ!」
「……あたしのお父さん、そういうとこはどうしようもない」
「同意しかねまス! 自分、ドヤされたくありませんのデ!」
少女が溜息をついて、白服の男が苦笑した。
男たちに襲われていた店主を少女が助け起こすなか、白服の男が俺たちに敬礼する。
「善良な市民を助けていただき、お嬢を庇っていただき、ホワイトガードの一員として感謝いたしまス!」
セシリアの予想通り、白服の集団は、パンデムにある三つの自警団のひとつ『ホワイトガード』だったらしい。騒動のなか、誰かが通報してくれたのだろう。
「あたしからも、お礼。助けてくれてありがとう」
店主を助け起こした少女がペコリと頭を下げる。
「構わぬ。きみのような勇気ある者を放っておけぬ性分なのでな」
「同感でス! お嬢は勇気ある方でス!」
俺に共感するように、ホワイトガードの男が瞳を輝かせた。
「なにしろお嬢は、我らが団長『ギース=アドナイ』のご息女にして、『白騎士』アレックス様を先祖に持つ方なのですかラ!」
俺とセシリアは目を見張る。
この少女が、アレックスの子孫?
俺たちが驚くなか、「も、もう!」とホワイトガードの男に頬を膨らませてから、少女が控えめな笑顔を浮かべた。
「あたしの名前、エミィ=アドナイ。よかったら、あなたたちにお返しがしたい」




