デートと討伐と邂逅――12
ピースメーカーの本部を出たあと、俺とセシリアはパンデムの繁華街を歩いていた。
ふたりきりなのは、
「わたしはホテルの確保とスキール様への報告をしてきますんで、イサムさんとセシリアちゃんは、美味しいご飯を出してくれそうなお店、見つけておいてくださいね!」
と言って、ティファニーが走り去ってしまったからだ。
そんなわけで、俺とセシリアは夕餉に用いる店を探し、繁華街を訪れた次第だ。
セシリアに歩調を合わせつつ、俺は腕組みする。
「ティファニーが、ことあるごとに俺とセシリアをふたりきりにしたがるのは、なぜだろうか?」
「ド、ドウシテデショウネー?」
セシリアがスッと視線を逸らした。言葉が棒読みな理由はわからない。
「まあ、セシリアといるのは楽しいから構わぬのだが」
「ほ、本当ですか?」
「嘘を言ってどうする」
目を丸くするセシリアに俺は微笑みかけた。
セシリアは俺から顔を隠すようにうつむく。
「わ、わたしも、イサム様と一緒にいると、楽しいです」
ちらりと見えたセシリアの口元は、緩んでいるようだった。
セシリアが嬉しそうにしていると、不思議と胸が温かくなるな。
心地よさに満たされながら、なおも繁華街を行く。
激しい音が背後から聞こえたのは、そのときだ。
振り返ると、飲食店と思われる店の、窓ガラスが割り砕かれ、ひとりの男が路地に放り出されていた。
突然の出来事に辺りは騒然となる。
悲鳴を上げる者。慌てて立ち去る者。放り出された男を心配して近寄る者。ただ呆然と立ち尽くす者。
人々が様々な反応を見せるなか、飲食店のドアが内側から蹴破られた。
「見世物じゃねぇゾ、オラァ!」
「野次馬は消えロ!」
ドアから出てきたのは、いかにも柄の悪そうなふたりの男だ。
悪人然とした男たちは、周囲の人々を睨み付ける。男たちに睨まれた者は、関わるなどまっぴらごめんというように、視線を逸らした。
路地に放り出された男に、柄の悪いふたりの男がにじり寄る。
「さっきから言ってんだロォ? 俺らがあんたの店を守ってやるっテ」
「出店するなら、俺らに話を通してもらわねぇとナァ?」
どうやら放り出された男は店主で、柄の悪い男たちは彼を暴行していたらしい。
ふたりの男の言動から察するに、その原因は――
「みかじめ料の取り立てか」
みかじめ料とは、反社会勢力が、飲食店や小売店に要求する場所代や用心棒代のことだ。
だが実際は、場所代・用心棒代とは建前に過ぎず、暴力を示唆して金銭を取り立てる違法行為。つまりは恐喝にほかならない。
悪人の性根は二〇〇年経っても変わらんな。救いようのない痴れ者だ。見るに堪えん。
はらわたが煮えくり返り、俺は刀の柄に手をかけた。
セシリアも憤っているようで、眉を上げながら俺に目配せする。
「イサム様」
「ああ。放っておけんな」
俺たちは頷き合い、店主を助けに向かう。
と――
「やめなさい!」
俺たちが店主に駆け寄るより早く、人だかりのなかからひとりの少女が飛び出し、男たちの前に立ちはだかった。
一〇代半ばと思しき見た目。体付きは華奢で小柄。
艶やかなセミショートは月明かりで染めたような銀色。
ライトベージュの肌は桃の果実のように瑞々しい。
瞳はヘマタイトの如き灰色で、眉尻は下がっている。
少女はモノトーンカラーのワンピースを身につけ、魔銃とホルスターが下げられたベルトを腰に巻いていた。
両腕を広げて店主を庇う少女に、ふたりの男は醜悪な笑みを見せる。
「邪魔しちゃいけないゼェ、お嬢ちゃん? お兄さんたちは大切なお仕事をしてんだヨ」
「お嬢ちゃんはとっととお家に帰んナ?」
「大切なお仕事? 冗談はよして」
「「アァ?」」
男たちの猫なで声が、ドスの利いた声に変わった。
眼を付けてくる男たちに怯むことなく、少女は凜とした目でにらみ返す。
「あなたたちがしているのはただの恐喝。善良な市民から無理矢理お金を奪って、恥ずかしいとは思わないの?」
「……俺たちの優しさがわかんねぇようだナァ、クソガキ」
「もう一度だけチャンスをやるヨ――痛い目みたくなかったらそこをどケ」
少女は決然と言った。
「どかない」




