デートと討伐と邂逅――11
ピースメーカーの本部は、パンデムの北部にある四階建てのビルだった。
ウォルスの案内で、俺たちは二階にある会議室に通された。
出されたお茶で一服したのち、俺は事情説明をはじめる。
「俺たちの目的は、顕魔兵装という兵器の破壊だ。ティファニーから聞いたが、お前たちは『ある犯罪組織が謎の兵器を入手した』との情報を持っているそうだな」
「『謎の兵器』が顕魔兵装かもしれないってわけッスネ? ところで、その顕魔兵装ってなんスカ?」
「魔族核を用いた兵器だ」
「ハァ!?」
ウォルスが愕然とする。
「なんでまた、そんな物騒な代物ガ……」
「魔族の血を継ぐ者たち――『魔の血統』の企みで製造されたのだ。大方、人間に復讐するための手段なのだろう」
ウォルスは言葉を失い、あんぐりと大口を開けた。
仕方ないだろう。魔王の討伐により、魔族は姿を消したと考えられていたのだ。まさか、人間と交わり子孫を残していたなど、思いも寄らなかったのだろうからな。
ウォルスが目元を覆い、深く深く溜息をつく。
「想像以上に大事ッスネ」
「ああ。『魔の血統』の暴挙はなんとしても阻止せねばならない。協力してくれるか?」
「もちろんッス」
ウォルスが神妙な顔つきで頷いた。
「助かる」と礼を告げ、俺はウォルスと握手する。
協力を約束し合ってから、ウォルスが情報を提供しはじめた。
「顕魔兵装と思われる兵器を入手したのは『ヘルブレア』。長年パンデムに巣くっている犯罪組織ッス」
ヘルブレアとは、
「『高貴なる者の務め』によって地位を奪われた、貴族が結成したものらしいッス。当然、構成員には元貴族が多いので、メンバーの力量はかなりのものッス」
「魔法の才は遺伝によるものが大きい。才ある者を配偶者に選んできた貴族には、実力者が多いからな」
言いながら、俺は複雑な気分になっていた。
『高貴なる者の務め』は、『賢者』フィーアが貴族の腐敗を打破すべく設けた、『社会に貢献した者・家系に、貴族位の授与・地位の昇格を行い、長く貢献していない貴族に、族位の剥奪・地位の降格を行う』制度だ。
実際、この制度は効果的で、現代社会は二〇〇年前とは比べものにならないほど発展した。
だが、完璧な制度など、この世にはない。どんなに素晴らしく見えようと、必ず穴があるものだ。
フィーアが設けた制度も例外ではない。元貴族がヘルブレアを結成したのは、地位を剥奪されたことに対する反発だろう。なんともやるせないものだ。
だが、感傷に浸っている暇はない。いますべきことは、顕魔兵装の速やかな破壊だ。
気持ちを切り替え、俺は話を続けた。
「骨が折れそうな相手だな」
「ええ。しかも、ヘルブレアの本拠地は見つかってないんス。パンデムの権力者のなかに、ヘルブレアと密通している者たちがいるみたいッスから、そのためでしょうネ」
「権力者が後ろ盾になっているわけか」
ウォルスが渋い顔で首肯する。
厄介な組織に顕魔兵装が渡ってしまったな。まったくもって面倒なことだ。
俺は嘆息した。
「なにはともあれ、ヘルブレアの本拠地を見つけねば話にならん。まずはそこからだ」
「ええ。いい加減、自分たちもヘルブレアの横暴は見過ごせませんかラ」
方針は決まった。とはいえ、夜がすぐそこまで来ている。
明日、ヘルブレアの本拠地を突き止めるための作戦を練ることにして、俺たちはピースメーカーをあとにした。




