デートと討伐と邂逅――10
オアー・ドラゴンの亡骸の撤去に時間がかかり、パンデムに到着する頃には日が暮れていた。
「予期せず長旅になってしまったな」
「流石に疲れました……」
いつも明るい笑みを浮かべているセシリアは、しかし、いまは疲労が滲んだ顔をしていた。時間がかかったうえにオアー・ドラゴンと一戦交えているのだ。疲弊するのも仕方がない。
うーむ。今日はもう休ませたほうがいいだろうか?
「すみませン!」
考えながら駅を出ると、駅前にいたひとりの青年が声をかけてきた。
年の頃はおそらく二〇代後半。
赤い短髪と、オレンジのつり目。顔立ちは精悍。
中肉長身の体にまとうのは、青を基調としたブレザーとスラックス。
腰には、魔銃が収められたホルスターが下げられている。
「イサムさん、セシリア=デュラムさん、ティファニー=レーヴェンさんで合ってるッスカ?」
「む? そうだが」
俺の返事を聞き、青年はピシッと背筋を伸ばし、敬礼した。
「お待ちしてたッス! 自分、ピースメーカーの団長を務めてるウォルス=ダグレストって言いまス!」
「ピースメーカー……ティファニーが合同捜査を依頼した、パンデムの自警団か」
確認すると、ウォルスは「はい!」と活力に満ちた返事をする。
「なかなか到着されないので、こちらから出向いてみたんスけド……」
「かたじけない。向かう途中、オアー・ドラゴンに遭遇してな」
「オアー・ドラゴン!? 大丈夫だったんスカ!?」
ウォルスが目を剥いた。
仰天するウォルスに、「ああ」と返す。
「討伐はしたのだが、いかんせん亡骸をどかすのに時間がかかってしまった。待たせてすまない」
「いえいえいえいえ! ご無事でなによりッス!」
危険度Sクラスのモンスターと遭遇していたとは思いもしなかったらしい。ウォルスの顔は冷や汗まみれだった。
「そういうことでしたら、今日はお休みになりますカ? 流石にお疲れでしょうシ」
ウォルスが気遣ってくる。
ちょうど、セシリアとティファニーの疲労が気にかかっていたところだ。ウォルスの申し出はありがたい。
「うむ。セシリアとティファニーは疲れているだろうし――」
俺が言いかけたとき、セシリアとティファニーが首を横に振った。
「わたしは平気です!」
「わたしも話をするだけなら大丈夫ですよ。イサムさんの足を引っぱるわけにはいかないですしね」
ふたりとも、俺が思う以上に強いらしい。自分の疲労より使命の遂行を優先したようだ。
そこまで言うなら気遣いは無用。むしろ、失礼にあたるだろうな。
笑みをこぼし、俺はウォルスに頼んだ。
「打ち合わせをしておきたいのだが、構わぬか?」
「もちろんッス!」
ウォルスはニカッと笑い返した。
「じゃあ、ピースメーカーの本部に案内しますネ!」




