デートと討伐と邂逅――4
マリトッツォをふたつ購入し、俺たちは近くにあったベンチに腰掛けていた。
「ふわぁ……!!」
マリトッツォを手にするセシリアは見るからに感激していた。頬がフニャフニャに緩み、瞳はキラキラと煌めいている。眺めているこちらが幸せになるような表情だ。
「食べるか」
「はい! いただきまーす!」
セシリアが勢いよくマリトッツォ(ピスタチオクリーム入り)にかぶりついた。
口のなかをマリトッツォでいっぱいにして、モキュモキュと咀嚼する。木の実を頬張るリスのようで可愛らしい。
セシリアが頬に手を添えて、「ん――っ♪」と目を細めた。
「美味しいです!」
「それはよかった」
いつもより子どもっぽい仕草に癒やされつつ、俺もマリトッツォ(チョコクリーム入り)を口にする。
パンはフカフカ。チョコクリームは濃厚だがしつこくない。はじめて食べたのだが、どこか懐かしさを感じる味だ。
「なかなかに美味いな」
「はい!」
セシリアが同意して、さらにマリトッツォを一口。
セシリアのマリトッツォはすでに半分なくなっていた。よほど食すのを楽しみにしていたのだろう。
罪悪感なく食べられるよう、免罪符を与えたのは正解だったな。
己の判断を褒めながら、俺もマリトッツォをかじる。
マリトッツォを味わっていると、不意にセシリアの視線を感じた。
見ると、セシリアが俺のマリトッツォをじーっと凝視していた。言葉に出さずとも、『食べたい!』という気持ちが伝わってくる。
思わず笑みをこぼしながら、俺はセシリアに、自分の持つマリトッツォを向ける。
「こっちも食べてみるか?」
「いいんですか!?」
「ああ。美味いぞ」
勧めると、セシリアは眩しいばかりの笑みを咲かせた。ブンブンと尻尾を振る犬のような喜び様だ。
セシリアが喜々として口を開ける。
マリトッツォにかぶりつこうとして――セシリアがピタリと動きを止めた。その頬には朱が差し、唇はムニャムニャとわなないている。
俺は首を傾げた。
「どうした?」
「い、いえ……このマリトッツォは、イサム様が口をつけたものですから……その……」
「む? 嫌だっ――」
「嫌ではありません!! 全然!! まったく!! これっぽっちも!!」
「食い気味だな」
セシリアが俺の懸念を全力で否定する。その目は狩人の如く真剣だった。そこまで必死になることだろうか?
俺が疑問符を浮かべるなか、セシリアは大きく息を吸って、大きく吐く。
緊張を鎮めるように深呼吸したセシリアは、ギュッと目をつむり、思い切ったようにマリトッツォにかぶりついた。
モグモグと咀嚼するセシリアに、俺は笑いかける。
「どうだ? 美味いだろう」
「……美味しいです」
セシリアは顔をうつむけて、消え入りそうな声で答えた。どうしてか、セシリアの耳は真っ赤になっていた。
セシリアの感想に満足して、三度、俺はマリトッツォを口にする。
うむ。やはり美味い。
「……イサム様」
口にしたマリトッツォをのみ込むと、セシリアが視線を逸らしつつ、自分のマリトッツォを俺に差し出してきた。
「その……わたしだけいただくのも、なんですから」
「分けてくれるのか?」
「は、はい……えと……あ、あーん」
口元をモニョモニョさせながら、セシリアが俺の口にマリトッツォを運ぶ。
「うむ。ありがたくいただく」
礼を告げ、俺はセシリアのマリトッツォを頬張った。
ピスタチオクリームのマリトッツォはまったりとした味わいで、チョコクリームのものとは違った美味さがある。
「こちらもいいな。甘くて美味い」
「そ、そうですね」
俺がかじったマリトッツォをセシリアが見つめ、ついばむように口にした。
「甘いです。とっても」
セシリアの横顔はトマトほど赤く、口元は緩んでいた。




