恋慕と使命と旅立ち――4
「はぁああああっ!!」
俺の攻撃を凌いだセシリアは、斬り上げによって振りかぶられた木剣を、再び振り下ろしてきた。
同時、セシリアの両腕に魂力が集まる。膂力を引き上げる武技『剛』。早くもセシリアは、三つ目の武技を修得していたのだ。
振り下ろされる木剣には、セシリアの腕力+剛による上乗せ+重力が込められている。まともに食らえばひとたまりもないだろう。
このタイミングで剛を用いてくるとは、なんという戦闘センスか。まったくもって末恐ろしい。嬉しい限りだ。
振り下ろされた木剣が、轟っ! と大気を震わせる。
雷の如き一撃。必殺の一撃。
「が、まだやられはせん」
俺はゆるりと木刀を掲げた。
セシリアの木剣が叩き込まれる。
瞬間、俺は木刀の剣身を傾けた。
木剣に込められた下向きのエネルギーを、優しく柔らかく斜めにずらす。
木剣が木刀の剣身を滑った。
受け流し。
木剣の破壊的なエネルギーを、俺は木刀の扱いでいなしたのだ。
「えっ!?」
木剣をいなされたことで、セシリアが体勢を崩した。
力任せに木剣を振るったため、セシリアは己の動きを制御できない。結果、木剣に引っぱられるかたちでぐるりと反転し、セシリアは仰向けで芝生に倒れた。
「きゃうっ!」
可愛らしい悲鳴が上がるなか、俺は木刀の切っ先をセシリアに突きつける。
「勝負あり、だな」
「あぅ……参りました」
負けを認めたセシリアが、木剣を手放して大の字になった。どことなく、腹を見せる犬を連想させる。
クスリと笑みをこぼし、俺は木刀を引いた。
「剛を用いた力押しは強力だが、力の制御が必要だ。無理矢理な攻撃は己の制御を離れるため、相手にコントロールされる危険性がある」
「はい……痛感しました」
「換言すれば、相手が力任せな手に出たら好機になるということだ。受け流しの技術は磨いておいて損はないぞ」
「そうですね。精進します」
「うむ。今日の稽古はここまでにしよう」
「はい! ありがとうございます!」
セシリアが上半身を起こし、ペコリと頭を下げる。
俺も礼をすると、セシリアが溜息とともに苦笑した。
「今日もまったく太刀打ちできませんでした。それどころか、イサム様は息も乱していませんね」
セシリアの声には元気がない。ヒマワリのように明るい笑顔も、いまは陰っていた。少々気落ちしてしまったようだ。
稽古をはじめてから、セシリアは俺に一太刀も浴びせられていない。そのため、自分の成長が実感できないのだろう。
だが、そのようなことはないのだ。
「心配はいらぬ。セシリアは確実に成長している」
「本当、ですか?」
「ああ。稽古のたび、セシリアは前日のセシリアを超えている」
不安そうに尋ねてきたセシリアに、俺は迷いなく頷いてみせた。
「たとえ微々たる進歩でも、日々積み重ねれば遠いところまで行けるものだ。大切なのは絶やさぬこと。粛々と淡々と努力を重ねることだ。気づけば、いつの間にか目標を達成している自分がいるだろう」
俺の言葉を噛みしめるようにセシリアが頷き、「はい!」と力強く返事をする。その顔に、不安の色はもうなかった。




