恋慕と使命と旅立ち――3
俺とセシリアのパンデム行きが決まり、出発の日に向けての準備をはじめていた。
しかし、朝に行うことはいつもと変わらない。
鍛錬だ。
「はぁああああっ!!」
動きやすい格好に着替えたセシリアが、早朝の澄んだ空気を引き裂き、木剣で一気呵成に斬りかかってくる。
右から左から上から真正面から斜め下から、絶え間なく繰り出される剣戟。怒濤の連撃は、さながら嵐のようだ。
されど、俺とて『剣聖』。剣に関してはほかの追随を許さない。セシリアの猛攻を、軽々と木刀でいなしていく。
「ふっ!!」
セシリアが鋭く息を吐いた。
セシリアの姿がブレる。直後、いまのいままで目の前にいたセシリアが、俺の左側面に回り込んでいた。
高速移動を可能とする武技『疾風』だ。
前方からの攻撃に意識を集中させておいて、意表を突いての側面攻撃。
上手い。
並の者ならば、なにが起きたかわからないまま倒されるだろう。
疾風の扱いは申し分ない。完璧に自分のものにしている。セシリアの成長速度はやはり驚異的だ。
感嘆しつつ、俺は左脚を後ろに引いて九〇度ターンし、逆袈裟に振るわれた木剣を木刀で受け止めた。
不意打ちに対応した俺に、セシリアが目を見開く。
俺はセシリアの木剣を弾き、流れるように右からの横薙ぎに繋げた。
「くっ!」
このまま斬り結ぶのは不利だと判断したのか、セシリアは疾風を用いたバックステップで俺から距離をとった。
潔い。引き際をわきまえている。
的確な判断に口端を上げ、俺はセシリアに木刀の切っ先を向けた。
「次はこちらからいくぞ」
疾風。
俺は風と化す。
予備動作ひとつない高速移動に、しかし、セシリアは対処してみせた。
「せぁああああっ!!」
裂帛の気合とともに、セシリアが木剣を振りかぶる。迫ってくる俺に、カウンターで唐竹割りを見舞うつもりだ。
文句のつけようのない合わせ。視力を強化する武技『審眼』を用いて、俺の動きを見切ったのだろう。
反応速度は上々。対応力も言うことなし。
振りかぶった木剣が振り下ろされる。
「では、これならどうだ?」
木剣の動きを注視していた俺は、疾風の速度を緩めた。
セシリアは俺の速度に合わせて木剣を振るっている。己のもとに到達する直前に、木剣のカウンターが届くように計算している。
なら、俺が速度を緩めたらどうなるか?
答えは目の前にあった。
振り下ろされた木剣が、俺を打ち据えることなく、空振りに終わったのだ。
セシリアが瞠目する。
俺は再び速度を上げ、セシリアに肉迫した。
木刀を袈裟懸けに振るう。
「そう簡単にはやられません!」
気合一声。
木刀が迫るなか、セシリアが手首を返して木剣の向きを変え、同時に跳躍した。
木剣を振り下ろした体勢からの斬り上げ。
跳躍の勢いを借りた強引な動きだが、正解だ。振り下ろした体勢のままでは、セシリアの敗北が決まっていたのだから。
俺が振るった木刀が、勢いの乗った斬り上げに弾かれた。
木刀と木剣がぶつかる音が響き、柄からしびれが伝わる。
自然と俺は笑みを浮かべていた。
それも当然。いまの一撃で、勝負は決まると思っていたのだから。
想像を超えてきたか!
背筋が震える。胸が躍る。セシリアの成長が嬉しくて堪らない。




