恋慕と使命と旅立ち――2
「あ、あの、ホークヴァン校長!」
感慨深く思っていると、不意にセシリアが手を挙げる。
セシリアは緊張した顔つきで、しかし決然と言った。
「わたしにも休暇をいただけないでしょうか? イサム様にご一緒して、パンデムに向かいたいんです!」
スキールが目を丸くした。
セシリアが両手を胸元で握り、訴える。
「わたしは、イサム様が満足な生活を送れるようにお手伝いすると誓いました! 足手まといにも決してなりません!」
魔力を生成できない俺は、『魔導具』を生活の中心に据えた『魔導社会』では満足に暮らせない。そのためセシリアは、俺の生活を側で支えてくれている。
また、セシリアはホークヴァン魔導学校でSクラス――最上位のクラスに在籍している。俺から武技を学んでいることもあり、同年代でセシリアに敵う者は希だろう。控えめに言っても充分以上の実力者だ。
セシリアの訴えに、スキールは渋い顔をした。
「相手はおそらく『魔の血統』。たしかにきみは実力者だが、まだ学生だ。流石に荷が重いだろう」
「で、ですけど……!」
「解決までどれだけ時間がかかるかもわからない。長期にわたって学業から離れられるのは、教育者として看過できない」
「それは、そうですが……」
「イサム様のお手伝いにはほかの者をつけよう。心配だろうが、セシリアくんにはラミアに留まってもらいたい」
「うぅ……っ」
スキールの正論に、セシリアが悔しそうに唇を引き結ぶ。それでも諦めきれないようで、セシリアは反論材料を探すように視線をさまよわせていた。
セシリアとスキール、双方の意見を踏まえたうえで、俺は口を開いた。
「スキールの意見は正しい」
セシリアが悲しそうに眉を下げる。
俺は続けた。
「だが、セシリアが魔王復活の鍵である以上、俺とともにいるのがもっとも安全ではないか?」
「む……それはたしかに……」
スキールの眉が動く。
勇者パーティーの手で魔王は討伐されたが、魂までは滅ぼせなかったらしい。そこで、『聖女』マリーの力で封印したそうだ。
セシリアはマリーの血を濃く継いでおり、その命は魔王復活の鍵になる。だからこそ、ヴァリスはセシリアを誘拐した。
ヴァリスのように、『魔の血統』がセシリアを狙う可能性は、今後も充分に考えられる。俺とセシリアがともにいる必要性は一層増したのだ。
俺はニカッとスキールに歯を見せる。
「案ずるな。セシリアの腕は俺が保証するし、なにがあっても必ず守る。実戦経験はなにごとにも勝る学びでもあるしな」
少しのあいだ黙考し、スキールが小さく息をついた。
「イサム様のご意見はごもっとも。セシリアくんの安全が保証され、学べることもあるならば、私が反対する理由はございません」
スキールが苦笑しながら、セシリアのパンデム行きを許可する。
「イサム様……!」
セシリアが感動したように瞳を潤ませて、俺を見つめる。なぜかわからないが、頬も紅潮していた。
そんなセシリアを眺めながら、スキールが顎に指を当てて「ふむ」と呟く。
「なるほど……親しげなご様子を校内で見かけたと聞いていましたが、そういうことですか」
「ふぇ!?」
セシリアが素っ頓狂な声を上げ、ビクッと肩を跳ねさせた。
「ホ、ホークヴァン校長! ああああのですね……!!」
慌てふためくセシリアに、スキールは「はっはっはっ」とおおらかに笑う。
「皆まで言わずともいい、セシリアくん。教育者としてはできないが、一個人としては大いに応援しよう」
「そ、そう言っていただけると嬉しいのですが……!」
「思えば、この時代に飛ばされてきたイサム様を真っ先に救ってくれたのはきみだったね。きみならばきっと、イサム様の居場所になれるだろう」
「はわわわわ……!! そんなこと、イサム様の前で仰ったらバレちゃいますよぅ!!」
セシリアの顔がますます赤らむ。
スキールが「うむうむ」と頷くなか、セシリアは両腕をパタパタと振り、目をグルグルと回していた。
はて? ふたりはなんの話をしているのだろうか?




