真相と大悪と修羅――10
慌てることなく歩を進め、俺は落ちてくる瓦礫を回避する。
やがて、研究室の入り口付近は瓦礫で埋め尽くされた。
地上に戻れば、さぞかし面白い光景を見られることだろう。綺麗に半分だけ崩れた、ヴァリスの屋敷を。
「さて。これでお前を仕留める手立てができた」
俺は刀を八相に構える。
ヴァリスがビクリと震えた。
「終わらせよう」
地を蹴った。
半壊した研究室を、ヴァリス目がけて駆け抜ける。
ヴァリスが頬を引きつらせ――口を裂くように笑った。
「かかりましたね!!」
天井が落ちてきたのは、そのときだ。
天井が大槌となり、俺を押しつぶさんとする。
冷や汗を掻きながらも、ヴァリスが哄笑した。
「たしかに私はベモス様には敵いません! ですが! 魔力を限界まで絞り出せば、この研究室の天井くらいなら操れるのですよ!」
「イサム様!!」
セシリアが悲鳴を上げる。
ヴァリスが悦に入る。
「残念でしたねぇ! 隠し球は最後までとっておくものなんですよ!!」
研究室の天井が床に落ち、バキバキと破砕の音を立てた。
「まったくもって同感だ」
「…………は?」
俺はヴァリスの首に刀をあてがう。
ヴァリスがすべての動きを止めた。
研究室の天井に押しつぶされることなく、俺はヴァリスのもとにたどり着いたのだ。
ヴァリスの視線が、俺の手元と自分の首元を行き来する。
絶体絶命の状況に陥っていると理解したのか、ヴァリスの体が震えだした。
「ど、どうして……?」
「隠し球は最後までとっておくものなのだろう?」
カチカチと歯を鳴らすヴァリスに、俺は教える。
「縮地。刹那のうちに距離を殺す武技だ」
そう。ケニーとルカとの模擬戦同様、天井に押しつぶされる直前、俺は縮地を用いて、一瞬でヴァリスに肉迫したのだ。
首にあてがわれた刃の感触に、ヴァリスの顔面が蒼白になる。
俺はヴァリスを睨み付けた。
「セシリアに醜い光景を見せたくはない。命までは取らん」
「あ……ぁ……っ」
「だが、次にセシリアに手を出せば容赦はせぬ」
凄む。
「叩っ斬る」
「ひ……ぃ……」
ヴァリスが白目を剥く。
口から泡を吹き、ヴァリスが仰向けに倒れた。
決着。




