表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/116

真相と大悪と修羅――9

「終わりです!」


 ヴァリスが勝ち誇る。


 俺は言った。


「甘い」


 丹田(たんでん)で魂力を練り、全身にまとわせる。


 重かった体が軽くなった。(いな)、身体能力が上昇した分、軽くなったように感じたのだ。


(ごう)』――膂力(りょりょく)を上げる武技により、俺は重力の増加に抗ったのだ。


 剛により引き上げられた膂力は、重力の増加を無視した。それだけに留まらず、さらなる速度を俺にもたらす。


 石弾が俺を握りつぶすように迫りきた。


 俺は刀を振るう。


 斬、斬、斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!


 (まばた)きのあいだに一〇〇を越える剣戟(けんげき)を繰り出し、石弾を(ちり)へと変えた。


 増加した重力をものともせず、タン、と軽やかに着地した俺を見て、ヴァリスが頬を引きつらせる。


「バケモノめ……!!」


 おののくヴァリスは、それでも虚勢(きょせい)をはった。


「で、ですが、あなたに私は倒せない! 近づくことすら敵わない! 力尽きるまで攻め立ててあげましょう!」

「そうだな。俺にお前を仕留める手立てはない」


 俺は刀を(さや)に収める。


 諦めたからではない。


 勝つためにだ。


「いまのままでは、な」


 右脚を前に、左脚を後ろに。


 鞘を左手で握り、右手を(つか)にかける。


 一呼吸。




「秘剣の二――『一文字(いちもんじ)』」




 抜刀(ばっとう)


 刹那の閃き。


 神速の剣が走った。


 ヴァリスが息をのみ、警戒を強める。


 静まり返る研究室。


 それから四秒。


 ヴァリスが怪訝そうに眉をひそめた。


「……なにも起きない?」


 俺は答えず、残心(ざんしん)の姿勢を取り続ける。


 強張(こわば)っていたヴァリスの顔に、余裕が戻ってきた。


「……は、ははっ、ははははははははっ!! なんだ、はったりですか! 心配して損しましたよ!」


 ヴァリスの笑い声が響くなか、俺は姿勢を戻し、血振(ちぶ)りの動作をする。


「結局、()(すべ)はないようですねぇ!! はったりに頼らなければいけないなんて――」

「なにを言っている?」


 ヴァリスの笑い声が止まった。


「はったりなどではない。俺は斬ったぞ」

「は?」


 直後、地響き。


 同時、俺は着地した。


 研究室の()()


「は?」


 ヴァリスが再び戸惑いの声を漏らす。


 当然だろう。重力の変化から、俺が解放されたのだから。


 呆然とするヴァリスに、俺は指摘する。


「お前はベモスを超えていると言ったが、それこそがはったりだろう?」

「そ、そのようなこと……」

「重力の向きや強さを操りながらも、お前は終始(しゅうし)魔導兵装(ロック・バースト)に頼っていた。『大地掌握』を、石弾の軌道を曲げることにしか用いていなかった」


 もしベモスなら、この研究室の壁や天井を操り、俺を押しつぶそうとしただろう。


 ヴァリスの戦法は小細工(こざいく)が過ぎるのだ。審眼で確かめたところ、魔力量も少なすぎる。ベモスの一〇分の一にも満たない。


 ヴァリスはベモスを超えてなどいない。それどころか足元にも及ばない。ベモスより(はる)かに格下だ。


 では、ベモスにもできなかった重力操作を、どうしてヴァリスはできるのか?


「この研究室にはエリュが入り浸っていた。お前はエリュを洗脳していた。だから、お前はエリュを利用して、()()()()()()()()のだ」


 ヴァリスの肩が跳ねる。


 その反応が示していた。重力操作のタネはこの研究室にある、と。


 ホークヴァン魔導学校の演習場のように、この研究室は魔導具になっているのだ。


 重力操作は、この研究室に組み込まれた術式なのだ。


 それさえわかれば対処は容易(たやす)い。研究室を機能不全に(おちい)らせるだけでいい。


 だから、斬った。


 地響きが音量を増し、研究室が揺れはじめる。


 ヴァリスが唇をわななかせた。


「ま、まさか……あなたが斬ったのは……」

「そうだ」


 研究室の天井に裂け目が走った。


 俺は答える。


「この屋敷そのものだ」


 裂け目が広がり、入り口付近の天井が崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ