真相と大悪と修羅――5
ベルモット准教授が魔族の血を継いでいると知り、わたしは呆然とする。
「昔話をしましょう。ある愚かな男の話を」
そんなわたしに、ベルモット准教授が語り出した。
「あるところにひとりの少年がいました。彼は家族から、人間を憎むよう、復讐するように言い聞かされて育ちました。彼の家族は魔族の血を継いでいたのです」
しかし、
「少年は家族の教えを受け入れられませんでした。彼には人間の友人がいたからです」
一呼吸置き、ベルモット准教授が再び口を開く。
「彼と友人はともに切磋琢磨していました。互いに立派になって、人々に貢献しようと約束していたからです。少年は思いました。彼になら、自分が魔族の血を継いでいることを明かしても大丈夫だろうと。受け入れてくれるだろうと。だからある日、少年は思いきって、自分の秘密を友人に打ち明けました」
それまで穏やかだった声が、底冷えするほど低いものになった。
「大間違いでした。少年の秘密を知った友人は、魔導兵装を抜き放ち、襲いかかってきたのです」
ベルモット准教授の憎悪の形相に、わたしは息をのむ。
「少年は自分の過ちを悟りました。友人に受け入れてもらえるなんて幻想に過ぎなかったのだと。人々に貢献しようなんて綺麗事に過ぎなかっただと。少年の家族は正しかったのです。少年は人間に復讐しなくてはならなかったのです」
だから、
「少年は友人を殺めました。友人を殺めながら、少年は自分の心が満たされていくことに気づきました。ようやく少年は理解したのです。これが魔族の本懐なのだと。人間への復讐こそが自分の使命なのだと」
ベルモット准教授の昔話を――彼の思い出話を聞いて、わたしは察した。
ベルモット准教授は人間を憎んでいるんだと。
マルクール教授を操ったのも、顕魔兵装を作成させたのも、生徒たちを襲ったのも、すべて、人間への復讐のためなのだと。
「あなたたち人間は言います。『世界は平和だ』と。反吐が出ますよ! 魔族がどれだけむごい仕打ちを受けてきたかご存じですか!? 人間がどれだけ残虐かご存じですか!?」
ベルモット准教授の双眸は、怒りと憎しみに染まっていた。さながら黒い炎が灯っているようだった。
「人間は滅亡すべきです! 羽虫は駆逐すべきです! そのためにはきみが必要なのですよ、セシリアさん!」
「わたし、が?」
わたしの口はカラカラに渇いていた。
ニタリと狂気の笑みを浮かべながら、ベルモット准教授が告げる。
「きみがいれば、魔王様を復活させられるのですから!」
わたしは絶句した。
理解が追いつかない。疑問が多すぎる。
混乱のなか、わたしはようやく言葉を絞り出した。
「魔王は、討伐されたんじゃ……」
「ええ。討伐されましたよ。憎き勇者パーティーによってね」
ベルモット准教授が吐き捨てるように言って、「ですが」と続ける。
「勇者パーティーといえど、魔王様の魂までは消滅させられませんでした。そこで次善策をとったのです。『聖女』マリー=イブリールが、力の限りを尽くして封印したのですよ」
知らされた事実に、わたしは愕然とする。
魔王の魂が消滅していない? この世界の脅威は、完全には退けられていないんですか? 真の平和は訪れていないんですか?
「忌々しいことです! しかし、その屈辱は晴らされる! 魔王様の魂は解放されるのです!」
口を裂くように笑い、ベルモット准教授がわたしの瞳をのぞき込んだ。
「『聖女』の血を濃く継いだ、きみを生け贄に捧げることでね!」




