真相と大悪と修羅――4
ベルモット家の前庭に、多数の男女が集まっていた。
総勢五〇名。
彼ら、彼女らは、いずれも魔導兵装を装備しており、辺りに注意を払っている。
どうやら、彼ら、彼女らは、ヴァリスの部下のようだ。
ヴァリスの部下たちが警戒するなか、キィ、と音を立て、ベルモット家の門が開かれた。
部下たちの視線が、一斉に門に向けられる。
開けられた門から、ひとりの男が入ってきた。
一八〇ほどの背丈。
体は細いが筋肉質。
黒いざんばら髪に、黒い切れ長の目。
身にまとうのは黒い執事服。
腰に佩くは一振りの刀。
イサムだ。
「誰ダ、お前? 門番はどうしタ?」
この場のリーダー格と思しき男が、怪訝そうな顔をしながら訊く。
イサムは一言。
「斬った」
ヴァリスの部下たちの目が変わった。
部下たちがそれぞれの魔導兵装を構え、警戒を強める。
多数の魔導兵装が向けられるなか、それでもイサムは平然と歩を進めた。
コツ、コツ、と靴音を立てるイサム。
イサムが八歩ほど進んだところで、リーダー格が眉をひそめる。
「なんダ? 侵入者はこいつだけなのカ?」
ほかに誰も現れないことで、侵入者はイサムだけと判断したらしい。
リーダー格の男の顔に余裕が戻ってきた。
「たったひとりで挑むなんて正気カ? こっちは五〇人もいるんだゼ? 敵うわけねぇだろロ」
イサムは答えない。
靴音を立て、ただ歩いてくる。
面白くなさそうに、リーダー格の男が舌打ちした。
「無愛想な野郎ダ。とっとと終わらせるカ」
リーダー格の男が、手のひらサイズの器具を懐から取り出す。キューブ状の器具には魔族核がはめ込まれていた。
リーダー格の男がキューブ状の器具を放る。
「来イ、『バアル・アームズ』!」
キューブ状の器具が――顕魔兵装が展開された。
展開された顕魔兵装から雷光が迸る。
雷光はバチバチと音を立て、『大』の字を描いた。
雷光が膨れ上がる。伸張し、膨張し、ひたすら巨大になっていく。
形成されたのは雷の巨人だった。
優に六メトロを超える巨体。両腕の太さを形容するには、『丸太のような』では足りない。さながら、数千年の時を生きた大樹のようだ。
「象と蟻だナ」
リーダ格の男が勝ち誇る。
「戦力差は歴然ってやつダ。お前には万に一つの勝ち目もネェ。バアル・アームズに潰されて、ここで死ヌ」
イサムは応じない。
靴音を立て、ただ歩いてくる。
呆れたように、リーダー格の男が息をついた。
「怖いもの知らずなのカ、ただのバカなのカ。まあ、どっちでもイイ。どっちだろうと一瞬で終わりダ」
リーダー格の男が口端をつり上げる。
「やレ! バアル・アームズ!」
バアル・アームズが左腕を振りかぶった。
振りかぶられた拳が放電し、雷鳴が大気を揺さぶる。
なおも歩を進めるイサムに、バアル・アームズが拳を振り下ろした。
さながら神の鉄槌。
バアル・アームズの拳が、イサムを叩き潰さんと迫る。
「秘剣の四――『無尽』」
刹那、無数の閃光。
細切れにされるバアル・アームズの巨体。
「…………ハ?」
リーダー格の男が間抜けな声を漏らし、ほかの者が呆然とした顔をする。
幾多ものブロックに切り分けられたバアル・アームズが、散るように消滅した。
バアル・アームズの中核となっていたキューブが地面に転がる。
イサムの脚が、キューブにはめ込まれた魔族核をバキリと踏み砕いた。
いつの間に抜き放たれたのか、イサムの手には刀が握られていた。
ギラリと鈍く光る刀が。
死をもたらす鉄の刀が。
「命が惜しくば下がっていろ」
イサムの眼光がヴァリスの部下たちを射貫く。
その姿、修羅の如し。
イサムが吠えた。
「死にたい者だけかかってこい!!」
ヴァリスの部下たちが、「「「「ひっ!!」」」」と引きつった悲鳴を上げた。
警察が到着したのは、それから一時間後。
まず彼らが目撃したのは、負傷した二名の門番だった。
続いてベルモット家の敷地内に踏み入ると、そこには五〇名の男女がいた。
彼ら、彼女らは、いずれも憔悴しきった様子で、赤子のようにうずくまり、ガタガタと震えていた。
取り調べを行ったところ、彼ら、彼女らは、顔面蒼白でこう供述したという。
「鬼が出タ……!!」




