混乱と裏切りと戸惑い――2
魔族の討伐は急を要する。
かといって、授業をおろそかにしてはいけない。むしろ必要性は増すだろう。万が一、生徒が魔族と遭遇した場合、自衛力は必須となるのだから。
俺は予定通り、グラウンドで授業を開いていた。
「今日から、きみたちには武技の修得に挑んでもらいたい」
2―Sの生徒たちがざわついた。
「武技って、失われた戦闘技能のことですよね?」
「先生は修得しているんですか?」
「ああ。俺が教師になったのは、きみたちに武技を教えるためだ」
生徒たちが目を丸くする。
驚くのも無理はない。魔導兵装の台頭により、武技は過去の技能となったのだ。武技を扱う者がいるとは思いもしなかっただろう。
「武技は身体能力を大幅に上昇させる。魔剣と併用できるようになれば、きみたちはより剣の高みに近づけるだろう」
「俺たちでも修得できるんですか?」
「時間はかかるだろうが確実にできる。いや、させてみせる」
俺が断言すると、生徒たちは顔つきを凜々しいものにした。
武技を修得する覚悟ができたらしい。
俺は満足の笑みを浮かべ、武技修得の第一段階に入る。
教えるのは、セシリアに伝授したときと同じ、調息だ。
「まず、魂力を認識するために、きみたちには調息を行ってもらいたい」
「調息?」
「武技の一種ですか?」
聞き慣れない単語に、生徒たちが首を傾げた。
俺は説明のために口を開く。
「調息とは――」
だが、説明は中断された。
グラウンドの真横。本校者の壁が、轟音とともに吹き飛んだからだ。
女子生徒たちが悲鳴を上げ、男子生徒たちが肩を跳ねさせる。
2―Sの生徒たちが動揺するなか、俺は即座に刀を抜き、臨戦態勢をとった。
刀を正眼に構え、粉砕された壁のほうを見据える。
もうもうと砂煙が立ちこめるなか、人影が映った。
砂煙が徐々に収まり、人影の正体が明らかになる。
俺は眉をひそめた。
「なにをしている、ヴァリス?」
そこにいたのは、先ほど俺に魔族の目撃を知らせたヴァリスだ。
ヴァリスは、魔剣と思しき武器を手にしていた。血管のような紋様が描かれた連接剣だ。
連接剣はその剣身を伸ばし、さながら威嚇する蛇のように宙をうねっている。十中八九、壁を吹き飛ばしたのはあの連接剣だろう。
しかし、なぜヴァリスがこのようなことを?
俺が疑問を得るなか、ヴァリスが叫んだ。
「皆さん、逃げてください!」
同時、連接剣が振るわれ、伸張した剣身が生徒たちに襲いかかった。
生徒たちが悲鳴を上げる。いまだ混乱のなかにあるのか、応戦できそうな者はひとりもいない。
「させん!」
生徒たちを庇うため、瞬時に俺は前に出た。
生徒たちを突き刺そうとする連接剣。その切っ先に逆袈裟の一撃を見舞う。
連接剣の切っ先が弾かれ――そこから紫色の液体が放たれた。
「むっ!?」
咄嗟に右に跳び、紫色の液体を避ける。
紫色の液体が地面に滴る。そこからシュウシュウと煙が上がり、地面が黒く変色していった。物質を腐食させる毒液のようだ。
まともに浴びていたら危なかった。躱したのは正解だな。
一息つき、俺はヴァリスを睨み付ける。
「なんのつもりだ?」
「違うんです! この剣が勝手に……!!」
ヴァリスは酷く狼狽した様子で弁明した。




