表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/116

新たな出会いと彼女の変化――8

「むぅ!」


 セシリアは、ぷくぅ、とフグみたいに頬を膨らませていた。はじめて目にする仕草だ。


 俺はポカンとする。


「セシリア? どうした?」

「……あっ!」


 我に返ったように、セシリアが慌てて俺の腕を放した。


「い、いえ、その……マルクール教授とイサム様がくっついていたら、勝手に体が動いてしまって……ど、どうしてでしょうか?」


 自分でも自分の行動が理解できないらしい。セシリアはオロオロと狼狽えていた。


「ふむ。それはあれだね」


 生徒の質問に答えるように、エリュが、ピン、と人差し指を立てた。


「ボクがイサムくんに詰め寄り過ぎたから、セシリアくんは不躾(ぶしつけ)に感じたんだよ」

「そう……なんでしょうか?」

「きっとそうさ!」


 エリュの答えがしっくりこないのか、セシリアが首を捻る。


 それでもエリュは、自分の考えを微塵(みじん)も疑っていないように、「うんうん」と力強く頷いた。


「ボクは興味を持ったらそのことに夢中になっちゃうんだ。そのせいで周りに迷惑をかけることもあってさ。よくきみみたいな反応をされるんだよ。ごめんね、セシリアくん」


 エリュが眉を下げ、ペコリと頭を下げる。


 セシリアが慌てて、「あ、いえ、お気になさらず!」と手を横に振った。


 取り残されたヴァリスが、なぜか生温(なまあたた)かい目でこちらを見ていた。


「いやー、校長からイサムくんの体質を聞いててさ。はじめて魔力を生成できない人間と会ったものだから、つい興奮しちゃったよ」


 エリュが苦笑いする。申し訳ないと思っているらしい。


 行動は突飛だが、ちゃんと反省している。いい子ではないか。


「謝らずともいい」


 俺は首を横に振った。


「セシリアから聞いた。きみは数々の発明で社会に貢献(こうけん)してきたと。きみの好奇心は人々の役に立っているのだ。礼を言うことはあっても、迷惑に感じることはない」


 エリュがパチパチと瞬きをして、頭をポリポリと掻く。


 エリュの頬は赤く、はにかみ笑顔を浮かべていた。


「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。ボクのこれは、好きなことをトコトン突き詰めたいっていう病気みたいなものなんだけど、誰かの役に立っているならよかったよ」


 エリュが「えへへへ」と頬を緩め――ハッとした。


「そうだ! 魔力が生成できないひとでも扱える魔導具って作れないかな!? この先、イサムくんのような体質のひとが現れるかもしれない! そういうひとでも使える魔導具が必要だ!」

「流石にそれは無理ですよ、教授! 魔導機構は魔力がなければ起動できない。それが常識じゃないですか!」

「発明は常識を越えたところにあるんだよ、ヴァリスくん!」


 ヴァリスの反論を一蹴(いっしゅう)して、エリュがテーブルに戻り、本を(あさ)りだす。


 エリュの顔は、新しいおもちゃを見つけた子どものようだった。どうやら、また自分の世界に没入(ぼつにゅう)したらしい。


 ヴァリスが何度目かもわからない溜息をつく。


「すみません、イサムさん、セシリアさん。おふたりはお客様なのに……」

「構わぬ」


 謝るヴァリスに、俺は手を左右に振った。


(ひさ)しぶりに楽しいやり取りができたからな」

「久しぶりに?」


 俺の言っていることがわからないのだろう。ヴァリスが首を捻る。


 俺はまぶたを伏せ、友の顔を思い浮かべた。


 きみの子孫は、きみにそっくりだ、リト。


 自然と、俺の唇は笑みを描いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ