新たな出会いと彼女の変化――7
さらにヴァリスが声を張り上げたとき、エリュがテーブルを、ドンッ! と叩き、勢いよく立ち上がった。
目を丸くするヴァリスを、エリュが、キッ! と睨み付ける。
「邪魔をしないでよ、ヴァリスくん!」
「ですが、お客様が……」
「何度も言ってるでしょ!? 『ひらめき』ってのは気まぐれなんだよ!」
「し、しかしですね?」
「よそ見をしてたら忘却の彼方に消えちゃうんだ! 世界を変えるかもしれないアイデアに逃げられたらどうするの!? 責任取れるの!?」
「ええぇ……?」
エリュの剣幕に気圧され、ヴァリスが狼狽えた。
ヴァリスは俺たちの到着を知らせただけ。まっとうなことをしただけのはずだが……なんと不憫な……。
頬をむくれさせてエリュが腰に手を当てる。見るからに立腹している様子だ。
反論を諦めたのか、ヴァリスがうなだれ、「すみませんでした」と謝る。
大変理不尽な光景を眺めながら、俺は苦笑した。
「セシリアが言ったとおり、面白い子だな」
「エキセントリックではありますけどね」
セシリアも「あははは……」と苦笑を返す。
ベルモット家に着くまでのあいだに、セシリアはエリュについて教えてくれた。
セシリア曰く――
「マルクール教授は、特例により一〇歳でホークヴァン魔導学校に入学し、一年で卒業された天才です。数々の発明で、魔技師界を何度も騒然とさせてきました」
「ただ、突飛な行動や常識外れの発言も多くて……よくも悪くも破天荒な方です」
とのことだ。
まさにその通りだな。型破りな自由人だ。
だが、いや、だからこそ、数々の発明ができたのかもしれぬが。
「それで、なんの用? ヴァリスくん」
「忘れられたんですか? お呼びになったのは教授じゃありませんか」
「ボクが呼んだ?」
エリュがコテンと首を傾げた。俺を呼び出したことをすっかり忘れているらしい。
ヴァリスが三度、魂が抜けたかと思うほど深く嘆息する。
「イサムさんがいらしましたよ」
ヴァリスがこちらを手で示した。
エリュの視線が俺たちに向く。
俺の姿を捉え、エリュがパチクリと瞬きして――
「おおっ!」
金の瞳をキラキラさせた。
散乱した用紙や武器を蹴飛ばしながら、エリュが駆け寄ってくる。
唖然と立ち尽くす俺に、飛びつかんばかりの勢いでエリュが身を寄せてきた。
「『アイ・オウル』起動!」
エリュが片眼鏡に手をやり、ジッと俺を見つめる。おそらく魔導具なのだろう。片眼鏡には魔石がはめ込まれていた。
「魔力変換率0%! きみは魔力が生成できないの!?」
「む? ああ、そうだ」
片眼鏡型魔導具の効果だろうか? エリュが俺の特異体質に気づく。
エリュは口を『O』のかたちにして、小さな体を精一杯伸ばし、俺に顔を近づけてきた。
「特異体質って聞いてたけど、まさか本当だったなんて……! どうやったらそういう体質になるのかな!? きみはどんな家系に生まれたの!? どんな環境で育ったの!? どんなものを食べてきたの!?」
先ほどまでの完全無視から一転。興味津々な様子でエリュが詰め寄ってくる。その勢いは、飼い主と遊びたがる犬を彷彿とさせた。
エリュの質問攻めに遭いながら、俺は思う。
あいつともこういうやり取りをしたな……懐かしい。
感じ入っていると、不意に俺の左腕が柔らかい感触に包まれた。
見ると、セシリアが俺の左腕を抱きしめ、エリュから離すようにグイグイと引っ張っている。




