新たな出会いと彼女の変化――6
「こちらが私の研究室です」
ヴァリスの案内でベルモット家を進み、俺とセシリアは地下に来ていた。
周りをレンガに囲まれた通路。その奥にある木製の扉を、ヴァリスがノックする。
「教授。お客様がいらっしゃいましたよ」
返事はなかった。
そのまま一〇秒が経つ。
それでも返事はなかった。
俺とセシリアが首を傾げるなか、ヴァリスが溜息をつく。
「勝手に入りますからね」
やむなしといった様子で、ヴァリスが扉を開けた。
研究室は長方形をしていた。
左側の壁には一面に棚が並び、奥の壁際と右側には、様々な器具が設けられている。
俺とセシリアはポカンとした。
研究室の床に、用紙や武器が散乱していたからだ。
「うーん。魔力伝導率を上げることができれば、魔導兵装の性能は大幅に上昇するんだけどなぁ……」
『ごちゃごちゃ』との擬音が相応しい研究室。その中央にある長方形のテーブルで、ひとりの少女がブツブツと呟きながら、本を眺めている。
小柄な少女だ。身長は一五〇セルチにも満たず、細身の体躯は起伏に乏しい。
琥珀色の髪はツインテールにされており、クリクリとした瞳は金色。
身につけているのは、シャツ、ショートパンツ、ブーツ、小柄な体と不釣り合いなほど大きな白衣。左目に装着している片眼鏡が印象的だ。
魔導学校の教授にしては顔立ちが幼い。セシリアよりも若いのではないだろうか?
「回路の素材を考えるべきかな? だとしたら、やっぱり魔力との親和性が高い素材がいいよねぇ……」
少女は俺たちに一瞥もくれず、読書と思考に熱中している。テーブルには、少女が読んだと思しき書物が、山の如く積まれていた。
もう一度、ヴァリスが深々と息をつき、俺たちに頭を下げる。
「すみません。イサムさんを呼んだのはこちらなのに……教授! エリュ教授! イサムさんがいらしましたよー!」
大声で呼びかけ、ヴァリスが散乱した用紙や武器をどけながら、少女――エリュに近寄っていく。
床に散らばった用紙の一枚を、セシリアが手にとった。
「これは……魔導兵装の設計図?」
用紙には、インクで剣が描かれていた。ところどころに、俺の知らない専門用語も認められている。
「だとしたら、転がっている武器は魔導兵装か?」
「おそらくそうでしょうね」
俺とセシリアはそう推察した。
エリュは魔技師科――魔導具・魔導機構の開発・修繕を扱う学科の、教授だ。ここにある用紙や武器は、魔導兵装と関連があるとみて違いないだろう。
俺とセシリアが話し合っているあいだに、ヴァリスがエリュのもとにたどり着いた。
「魔力との親和性が高い素材といえば魔石だけど、回路に加工するには靱性が足りないなぁ……」
「エリュ教授ー!」
ヴァリスが呼びかける。
エリュは気づかない。
「いや、諦めるのは早い! 魔石自体を回路に加工するのは難しいけど、合金にすればどうだろう?」
「エリュ教授! イサムさんがおいでになりました!」
声を大きくしてヴァリスが呼びかける。
エリュは気づかない。
「どうやって魔石を合金にする? 組み合わせる金属はなにがいい? ……そうだ! ミスリルを用いれば……!」
「エリュ教授!!」
「ああ、もう! うるさいなぁ!!」
さらにヴァリスが声を張り上げたとき、エリュがテーブルを、ドンッ! と叩き、勢いよく立ち上がった。




