新たな出会いと彼女の変化――5
二日後。休日の昼過ぎ。
俺は魔導車に乗り、ラミアの街並みを眺めていた。
「乗り心地はいかがですか?」
「馬車よりも速く、しかし揺れは少ない。文明とは素晴らしいものだ」
感慨深く目を細める俺に、隣に座るセシリアが口元をほころばせた。
俺は視線を運転席に向ける。
「プラム。魔導車を出してくれて助かった」
「いえいえ、お安いご用です」
魔導車を運転しているのは、デュラム家のメイド長、プラム。俺がはじめてデュラム家を訪れた際、玄関でセシリアを待っていた者だ。
魔導車に乗ってどこに向かっているのか? それは、エリュ=マルクール――『工匠』リト=マルクールの子孫のもとにだ。
ホークヴァン魔導学校にて魔技師科の教授を務めているエリュは、スキールから俺についての話を聞き、興味を抱いたらしい。
会って話がしたいとのことで、俺たちはエリュのもとに向かっている。
プラムが魔導車を出してくれたのは、俺とセシリアの送迎をするためだ。
プラムが朗らかに笑った。
「イサム様はお嬢様の恩人ですし、ベルモット家までは距離がありますからね」
「ベルモット? 目的地はマルクール家ではないのか?」
プラムの発言に、俺は首を傾げる。
「マルクール教授はベルモット家に入り浸っているんですよ」
答えたのはセシリアだった。
「ベルモット家の当主、ヴァリスさんは、ホークヴァン魔導学校:魔技師科の准教授で、マルクール教授の助手にあたるんです。マルクール教授は、ベルモット准教授の研究室が気に入ったらしく、そこに籠もって研究に明け暮れているんです。なんでも、最新の設備が揃っているからだとか」
「他人の家に入り浸るか……変わり者の気配がするな」
俺がそう返すと、セシリアが乾いた笑いを漏らす。
「ええ。相当な変わり者です」
目的地であるベルモット家は、ラミア北西部の、静かな場所にあった。
ベルモット家は上級貴族らしく、敷地はデュラム家よりも広大だ。芝生の庭が、緑の海のようだった。
「イサム様、セシリア様、お待ちしておりました」
ベルモット家の門には執事が立っており、到着した俺とセシリアを屋敷まで案内してくれた。
レンガ敷きの道を歩いていくと、三角屋根を持つ館が見えた。その玄関で、ふたりの男が話をしている。
男のうちのひとりが俺たちに気づいた。
「では、そういうことでお願いします」
「かしこまりました」
俺たちに気づいた男が話を切り上げた。男の話相手はペコリと一礼し、俺たちにも会釈してから去っていく。
俺たちに気づいた男は、二十一才の俺よりも、三才ほど年上に見えた。
身長は一七〇セルチほど。体型は中肉。
髪は深緑のミディアムストレート。髪と同じく深緑色をした、アーモンド型の目を持っている。
整った顔立ちはシュッとしており、カーキーのジャケット、白いシャツ、赤いネクタイ、茶色いズボン、ズボンと同色のブーツを身につけていた。
男が歩いてくる。
「お待たせしました。あなたがイサムさんですか?」
「ああ」
「私はヴァリス=ベルモットと言います。ホークヴァン魔導学校の教師同士、これからよろしくお願いします」
男――ヴァリスが握手を求めてきた。
俺はヴァリスの手を取り、「こちらこそ、よろしく頼む」と応じる。
「ベルモット准教授。お話中、失礼しました」
「構いませんよ、セシリアさん」
ヴァリスと話相手の邪魔をしたと思ったのか、セシリアが申し訳なさそうに頭を下げた。
ヴァリスは苦笑して、「いえいえ」と手を振る。
「すでに用件は伝え終えていましたから。それに、彼はベルモット家の使いなんです。私はまったく気にしませんよ」
「使い? 使者ということか?」
「ええ。エリュ教授のリクエストで、彼にはパンデムから魔石を仕入れてもらっているんです。エリュ教授曰く、パンデムの魔石は良質とのことでして」
俺の質問にヴァリスが答える。
回答のなかに出てきた『パンデム』という単語に、俺は眉をひそめた。
――言葉の訛りから、おそらく、北東の街『パンデム』に住む方だったと思われます。いつもは撃退しているんですけど、今日は『魔導兵装』がなくて……イサム様が助けてくださらなければ、さらわれているところでした。
セシリアの誘拐犯が、パンデムの者だったからだ。
パンデムの住人自体に罪はないが、どうしても引っかかりを得てしまう。
俺と同じ気持ちなのだろう。セシリアが表情を曇らせていた。
「お使いの方は大丈夫なのでしょうか?」
セシリアの呟きに、ヴァリスが首を傾げる。
「大丈夫とはなんのことでしょう、セシリアさん?」
「あ、いえ、パンデムの治安が気になりまして」
流石に、『パンデムの方に誘拐されそうになったことがありまして』とは言えなかったのか、セシリアが理由をぼかした。
ヴァリスが嘆息する。
「治安は悪くありません。ですが、裏社会の者たちが巣くっているとの噂があります。そこは私も気になりますね」
ヴァリスはヴァリスで気苦労しているようだった。




