新たな出会いと彼女の変化――4
「大変な一日でしたね」
「まったくだ」
夜。セシリアの部屋で、俺とセシリアは一日を振り返っていた。
「はじめて魔導学校に行ってみたらケニーに絡まれ、模擬戦にまで発展し――」
「模擬戦が終われば、ホークヴァン校長に頼まれて、イサム様が教師を勤めることになるなんて……いろいろありすぎて疲れました」
「同感だな」
俺とセシリアは顔を見合わせて苦笑する。
「わたし、嬉しかったです」
ふと、セシリアが胸元に手を当て、静かにまぶたを閉じた。
「ホークヴァン先輩にイサム様が言い返してくれて、わたしの努力を認めてくれて――わたしを『セシリア=デュラム』として見てくれて、とってもとっても嬉しかったです」
まぶたを上げ、セシリアがふわりと笑みを咲かせる。
セシリアは、自分を自分としてではなく、『「勇者」と「聖女」の子孫』として認識されていることに悩んでいた。
ケニーも、セシリアはSクラスに相応しくないと、評価が間違っていると見下してきた。
だから俺は言い放ってやったのだ。
セシリアの評価はたゆまぬ努力のすえに勝ち取ったものだと。
セシリアの評価はセシリア自身の手でつかんだものだと。
ケニーに、セシリアを評する資格などないと。
俺はセシリアに微笑みを返す。
「当たり前のことをしたまでだ。血統でひとを評するなど愚かとしか言えぬ。目が曇っているとしか言えぬ。本人を見ずして、どうしてその者を評することができようか」
エメラルドの瞳を見つめながら、俺は告げた。
「誇っていいぞ、セシリア。嘲笑され、見下され、それでも歩みを止めずに努力してきたきみは、どこまでも気高い」
セシリアの顔がリンゴのように色づく。
セシリアがうつむき、指をモジモジさせながら、「あ、ありがとうございます」と囁くように言った。
俺は首を傾げる。
ここまで照れるものだろうか? 視線が落ち着いていないし、顔も赤すぎるし……。
俺はただ、本心を口にしただけだ。セシリアのありのままを褒めただけだ。その反応としては過剰な気がする。
頭を捻って考えていると、俺の目に、時間を知らせる魔導具(時計というらしい)が映った。
時計が示す時刻は、午後一〇時を回っていた。
午後一〇時から午前二時は、肉体がもっとも成長する時間帯だ。翌朝の鍛錬に万全の状態で臨むためにも、早く就寝したほうがいい。
セシリアの反応について考えるのは置いておこう。睡眠を確保するのが最優先だ。
「うむ」と判断し、俺はセシリアに提言した。
「そろそろ就寝しよう、セシリア」
「そうですね。今日は疲れましたし」
セシリアが同意の頷きを返す。
俺たちは揃ってベッドに向かった。
俺とセシリアは横になり――セシリアがパッと立ち上がった。
セシリアの謎の行動に、俺は目を瞬かせる。
「眠らないのか?」
「い、いえ。眠ろうと思ったのですが……」
戸惑った様子で、セシリアが寝間着の胸元をキュッと握った。
「なぜかわからないのですが、胸がドキドキして、息苦しい感じがして、いても立ってもいられなかったんです」
「なに!?」
セシリアの異変に俺は飛び起きた。
たしかにセシリアの呼吸は速く、顔も火照ったように赤い。
もしや病気か!? 赤らんだ顔は発熱のせいか!?
慌てて俺は、セシリアと額を合わせる。
セシリアが目を白黒させるのに構わず、俺は額の感覚に集中した。
「やはり熱があるな。模擬戦の疲れが響いたか?」
「はわ、はわわわわ……!」
「む!? さらに熱が上がったぞ!」
俺が顔をしかめるなか、セシリアは目をグルグルと回し、口をわななかせていた。尋常でない様子だ。
緊急事態だ! 早く医者に診せばければ!
焦燥感に駆られていると、セシリアが突然、俺の胸を押し、身を離した。
「どうした!?」
「そ、その……イサム様とくっついていると、ますます鼓動が早くなって、胸がキュウッと締め付けられまして……」
「俺とくっついていると? そのような症状は聞いたことがないぞ」
「わ、わたしもはじめての体験です。ただ、病気ではないと思うんです」
「なぜだ?」
「嫌な気分がしないんです。むしろ、幸福に満たされているような感じがしますので」
わけがわからん。
俺は顔をしかめた。
熱があり、息苦しく、鼓動が早いうえに、胸が締め付けられる。それなのに幸せな感じがするだと? 矛盾していないか? セシリアはどうしてしまったのだ?
腕組みして「うーむ」と悩む。
「……ひとまず様子を見るか。一晩眠り、それでも症状が緩和しなければ医者に診てもらおう」
「そうですね。素人考えで判断するのは危ないですから」
頷き合い、俺とセシリアは床についた。
翌朝になってもセシリアの症状は治らなかった。
医者に診てもらうべく、俺とセシリアはジェームズとポーラに相談した。
だが、俺たちが病院に向かうことはなかった。ジェームズとポーラが必要ないと判断したからだ。
ポーラが言うには、セシリアの症状は特別なことではなく、特定の条件が揃えば誰しもが経験することらしい。
よくわからんが、病気でないのならば一安心だ。
それにしても、ジェームズがひどくさみしそうにしていたが、なぜだろうか?




