師匠と弟子と決闘――13
「どうして!? どうしてですか!?」
長い銃身を持つ魔銃を構えながら、ルカが青ざめた顔で叫んだ。
「どうして一発も当たらないのですか!?」
何発目ともわからない雷槍をルカが撃ち出す。
雷槍は風よりも速く飛び、しかし、俺に当たることはなかった。命中する直前で、俺が体を傾けたからだ。
雷槍は目にもとまらぬ速度だ。だが俺は、雷槍の軌道も、ルカの予備動作も、いつ雷槍が射出されるかも、すべて見切っていた。
武技『審眼』。目に魂力を集め、視力・動体視力を強化する術。熟達すれば、魔力・魂力の流れすらも見極められる。
当然ながら、俺の審眼は熟練の域だ。ルカがいくら雷槍を撃とうと、俺は完璧に対処できる。
ルカを焦らせているのは、雷槍が当たらないことだけではない。疾風を用いた俺が、高速で迫っていることも一因だった。
この速度で走ると、俺はあと二〇秒程度でルカのもとにたどり着く。ルカはそれまでに俺をなんとかしなければならない。
「くっ!!」とルカが歯噛みして、再び魔銃を構えた。
雷槍が射出される。狙いは俺の左脚だ。
タイミングと軌道を見切り、俺は右に跳んで回避する。
「そこです!」
直後、ルカが続けて引き金を絞った。
俺は「ほう」と感心する。
「誘導したか。いい腕だ」
ルカが俺の左脚を狙ったのは、撃ち抜くためではない。俺に右に跳ばせるためだ。
体の左側を狙われている状況で左に跳んだ場合、躱しきれず右半身に当たる可能性がある。跳ぶならば右だ。
そんな俺の考えをルカは読んでいた。
跳ぶ方向がわかっていれば、先んじて雷槍を撃つことが可能。そして宙にいる状態では、俺は身動きがとれない。
現状、俺は雷槍を避けられないのだ。
雷槍が一直線に迫ってくる。
俺は焦らなかった。
「疾っ!!」
薙ぐ。斬る。消える。
俺の刀に雷槍が断たれ、霧散した。
「――――っ!?」
ルカが絶句する。無理もない。刀で魔法を斬るなど、まして打ち消すなど、本来は不可能なのだから。
だが、俺ならばできる。
すべての魔法には、魔力が集中する『要』が存在し、『要』を失えば、魔法は存在を保てなくなる。
俺はその『要』を断ったのだ。
審眼で魔力の『要』を見極め、魂力をまとわせた刀で斬ることで、魔力により発生した事象を打ち消す。
それが、俺独自の武技『破魔』だ。
雷槍は見切られる。隙を作っても破魔で打ち消される。
俺を倒す手段は、ルカにはない。
「ならばっ!」
それがわかったからだろう。ルカは俺に向けていた銃口を別の場所に向けた。
俺がもといた場所――現在、セシリアとケニーが戦っている場所に、だ。
俺を倒すことは敵わない。ならばせめて、セシリアを倒そうと考えたのだろう。
実力も判断力も申し分ない。ルカは優れた戦士だ。
だが、残念だな。
「俺から目を切るのは致命的だぞ、ルカ」
俺は刀を突きつけた。
目の前にいる、ルカに。
「…………え?」
状況が飲み込めないのか、ルカが一切の動きを停止させた。
『縮地』。足さばきにより重力を推進力に変え、そこに疾風を併せることで、刹那のうちに距離を殺す術。破魔と同じく、俺が独自に編み出した武技だ。
先ほどルカの狙撃からセシリアを守った際も、俺は縮地を用いた。
即ち、縮地の速度は雷すら超える。
いまだ固まっているルカに、俺は訊いた。
「まだやるか?」
ルカの手から魔銃がこぼれ落ち、カシャン、と音を立てる。
ガクリと崩れ落ちたルカは、力なく首を横に振った。
「さて。あとは見守るだけだな」
俺は刀を鞘に戻す。
「……ここにいてよろしいのですか? セシリア様の加勢に向かわれるべきではないでしょうか?」
打ちひしがれたようにうつむきながら、ルカが俺に尋ねてきた。
俺は口端を上げる。
「行かないのではない。行ってはいけないのだ。セシリアは己の実力を示すために戦っている。己を『「勇者」と「聖女」の子孫』ではなく、『セシリア=デュラム』として認めさせるために戦っているのだ」
セシリアとケニーが戦っている場所に目をやった。
射撃、剣戟、破砕、割断――戦場からは、砂煙と鳴動が絶えず上がっている。
「俺が加勢しては意味がない。これはセシリアの戦いなのだから」
「……セシリア様は、ケニー様に勝てませんよ?」
うつむいたまま、ルカがボソボソと忠告する。
「勝つさ」
俺は断言した。
ニッ、と歯を見せるように笑う。
「セシリアは、俺の自慢の弟子だからな」




