師匠と弟子と決闘――12
着地した俺に新たな脅威が襲いかかってくる。上空から、二体目の魔精が降下してきたのだ。一体目の魔精とまったく同じ姿形。あれもウイング・ウインドという魔精なのだろう。
二体目のウイング・ウインドが、風の刃を放つ。
問題ない。
俺は、タンッ、タンッ、と軽やかにステップを踏み、次々と放たれる風の刃をことごとく避けた。
敵襲は続く。
一体目のウイング・ウインドが隠れていた岩陰から、セシリアを狙って氷の棘が射出されたのだ。
氷の棘がセシリアを襲う。
対し、セシリアはセイバー・レイを逆袈裟に振るった。
「はあっ!」
セイバー・レイは狙い違わず氷の棘を断ち斬る。セシリアは無傷だ。
氷の棘が放たれた岩陰から、「ちっ」と舌打ちが聞こえた。
「凌いだか! 生意気な奴め!」
岩陰に隠れていたのはケニーだ。
ケニーは苛立ちに顔を歪め、岩陰から飛び出す。その手に持つのは白い魔導兵装。鋭い突起が銃口の下にある、魔銃だった。
ケニーが魔銃をセシリアに向ける。
同時、セシリアがケニー目がけて駆けだした。
「一気に行かせてもらいます!」
「ほざけ、凡人!」
ケニーが氷の棘を乱射する。
セシリアがセイバー・レイを振るい、氷の棘を薙ぎ払っていく。
ケニーとセシリアの距離は見る見るうちに縮まっていった。あと一〇歩踏めば、セシリアの剣はケニーに届くだろう。
ケニーは焦りに頬をひくつかせ――
「なんてね」
雷光。
どこからか放たれた雷の槍が、セシリアの側頭部に迫る。
セシリアが瞠目し、ケニーがいやらしく口端を歪めた。
セシリアの頭が撃ち抜かれる――寸前。
「破ぁっ!!」
俺の袈裟斬りが、雷槍を断った。
消滅する雷槍。
「…………は?」
その光景を目にしたケニーは、ポカンと口を開けて呆然と立ち尽くす。なにが起きたのかわかっていない様子だ。
俺は、ふぅ、と息をついた。
「大丈夫か、セシリア?」
「は、はい……」
奇襲を察知できなかったことを気に病んでいるのだろう。セシリアが眉を下げる。
「すみません、油断しました」
「気にするな」
俺は雷槍が飛んできた方向を見据える。
「これはペア戦。こちらもあちらもふたりで戦っているのだから」
遠く遠く、演習場の端。崖の上に位置取ったルカが、こちらに銃口を向けたまま唖然としていた。
ケニーたちが狙っていたのはこれか。
俺は悟った。
俺とセシリアの注意をケニーが引きつけ、ルカがどちらかを狙撃する。俺たちはどちらかが脱落し、結果的に完成するのは二対一の状況――ケニーたちが有利な状況だ。
ケニーがペア戦を望んだのは、ルカによる不意打ちを仕掛けるためだったのだ。
「な、なんだ……いまの動きは」
ケニーがわなわなと身を震わせる。
「あれだけ距離が離れていたんだ、助けにいけるはずが……そもそも、な、なぜ、魔法を打ち消せる?」
ダラダラと冷や汗を流すケニーを無視して、俺はセシリアを見つめた。
「落ち込まずともいい。反省して糧にすればいい。それでも悔しければ、ここから挽回すればいい」
ポン、とセシリアの肩を叩く。
「俺はルカを叩く。ケニーは任せた」
落ち込んでいたセシリアが、キッと眉を上げた。
「行けるな?」
「はい!」
頼もしい返事を耳にして、俺はルカがいる崖へと走り出した。




