師匠と弟子と決闘――11
「『魔精』? それはなんだ?」
「魔導兵装のひとつです。遠隔操縦が可能な、走行・飛行・遊泳する魔法体、といったところでしょうか」
「ふむ。召喚獣のようなものか」
コクリと首肯して、セシリアが続ける。
「魔導兵装を扱うには、魔力出力・魔力指向性の制御が必要で、複数用いるとなると難度が跳ね上がります。右手と左手で別の動きをするように」
それなのに、
「ホークヴァン先輩は、三つ同時に魔導兵装を操ります。そんなことができるのは、この学校の生徒では彼だけです」
「性格はねじ曲がっているが、実力は本物か」
セシリアの話を聞き、俺は確信した。
「気をつけねばならん。ケニーはなにか企んでいる」
「企み、ですか?」
小首を傾げるセシリアに、俺は問いかける。
「セシリアは二回生、ケニーは四回生。常識的に考えると、実力が上なのはどちらだ?」
「ホークヴァン先輩です。彼はわたしより二年多く学んでいるんですから」
「その通り。ケニーもそう思っていることだろう」
「ならば」と、俺は眼差しを鋭くした。
「なぜケニーは、セシリアとの一対一ではなく、俺とルカを参加させたペア戦にしたのだ?」
セシリアがハッとする。俺の言いたいことを察したようだ。
ケニーからルールを指定されたときからおかしいと思っていた。
ケニーは実力者、かつ、セシリアを見下している。少なくとも、一対一で負けるとは考えていないだろう。
それなのに、ケニーはペア戦を望んだ。
ケニーにとって俺の実力は未知数。いや、俺の威圧感を肌で感じたのだから、自分より格上と判断している可能性が高い。
俺を参加させることは、ケニーからしたらデメリットでしかない。勝てる(と思っている)勝負を不確定にする行為なのだから。
だとしたら――
「ケニーには狙いがあるのだ」
「わたしとの一対一よりも確実に、勝利を収める算段があるということですか?」
「ああ。警戒して足りんことはない」
険しい顔つきでセシリアが頷いた。
風の刃が飛来したのは、そのときだ。
風の刃は、斜め左前にある岩陰から突如として現れた、薄緑色の翼を持つ、鳥のような物体から放たれたものだ。
鳥のような物体は、『Y』字型の機器を中心に形成されていた。『Y』字型の機器には魔石が埋め込まれている。
「魔精『ウイング・ウインド』!」
セシリアが声を上げた。なるほど、あれが魔精か。
「回避だ、セシリア!」
「はい!」
俺たちは即座に対応した。
左右に分かれて跳び、風の刃を回避する。直後、風の刃が地面をえぐり、砂煙が立ち上った。




