師匠と弟子と決闘――2
「ほう! 殊勝な心がけだな」
俺に褒められて嬉しいのか、セシリアが頬を緩めた。
セシリアがクッと胸を張る。
「わたしの夢は、一流の『魔剣士』になることですから」
語るセシリアは誇らしげに映った。イキイキとして見えた。
夢があるのはいいことだ。
夢を叶えるために努力するのはいいことだ。
努力を継続するのはいいことだ。
だが、それが難しい。多くの者は夢を語るだけで終わる。夢を叶えるために努力を継続することは、思った以上に難しい。
しかし、セシリアは夢を夢で終わらせないよう、努力を継続して習慣化している。素晴らしいことだ。友たちの子孫が向上心に溢れていて、俺は嬉しい。
頑張る者は応援したくなるのが人情だ。セシリアに夢を叶えさせるため、俺も力になりたい。
俺は提案した。
「よければアドバイスしようか?」
「いいのですか!?」
セシリアがヒマワリのような笑みを咲かせる。
眩しいばかりの笑顔に、俺も笑みで応じた。
「ああ。これからセシリアには世話になるからな。少しくらいお返しをせねば」
「少しなんかじゃありません! 充分すぎるくらいです! 『剣聖』であるイサム様に剣のアドバイスをいただけるなんて、願ってもないことです!」
高揚しているのか頬を上気させ、セシリアが剣を抜く。
刃渡り一〇〇セルチほどの、両刃の長剣。十字架に似た形状で、鍔の中央に魔石がはめ込まれている。
体の向きを変え、セシリアが訊いてきた。
「よろしいですか?」
「構わん」
「では、お願いします」
俺の頷きを確かめて、セシリアがまぶたを閉じる。
柄にはめ込まれた魔石が灯り、セイバー・レイの刀身がオレンジ色のオーラに包まれた。
セシリアがまぶたを開ける。柔和な顔立ちは凜々しく引き締まり、眉はキリリと上がっていた。
剣士の顔つきになったセシリアが、セイバー・レイを中段に構える。
「――参ります」
ヒュッ、と短く息を吸い、セシリアが一歩を踏みながらセイバー・レイを振り上げ――
「はあっ!!」
鋭く振り下ろした。
思わず、俺の口から「おっ」と声が漏れる。
セシリアの剣舞は続く。
振り下ろした体勢からさらに踏み込み、左から右への横薙ぎ。そこから流れるように刺突。相手の反撃を想定しての防御から、弧を描くかたちでの斬り返し。
一連の動作を終え、セシリアが残心の姿勢をとる。
ふぅ、と息をつき、セシリアが体勢を戻した。
「いかがでしたか?」
俺の感想は一言に集約される。
「よかった」
「本当ですか!?」
セシリアの瞳が輝いた。
「ああ。正直、驚いた。基本をしっかりと押さえた真っ直ぐな剣だ。少なくとも俺の時代において、これだけの剣を振るえれば、一角の者と見なされる」
セシリアが剣を振った瞬間にわかった。迷いのない踏み込み。淀みのない剣筋。あれは一朝一夕で身につくものではない。
何年も何年も、日々の鍛錬を年輪のように重ね、体に刻み込まれた動きだ。長い積み重ねの成果だ。
けちをつける点はひとつもない。だから俺は、純粋なアドバイスをセシリアに送る。
「欠点らしい欠点はないが、意地悪になれればさらに伸びるだろう」
「意地悪に、ですか?」
「セシリアの剣は基本に忠実だ。とてもよいことだが、実戦では相手を出し抜く狡猾さも必要になってくる。真っ直ぐなだけでは読まれるからな」
「なるほど……」
「かなり高次元の助言だ。セシリアは基本から外れることを覚えたほうがいい。『守破離』という言葉があるが、きみは『守』の段階――基本を忠実に守り、身につける段階を終えている。次は『破』――新たな考えや剣を学び、己の殻を破るべきだ。そうすれば『離』――既存の教えを離れ、己の剣を振るえる境地に至れる」
「はい! ありがとうございます!」
セシリアがセイバー・レイを鞘に収め、ペコリと礼をした。好ましい反応だ。素直な者は伸びるからな。




