表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/116

師匠と弟子と決闘――2

「ほう! 殊勝(しゅしょう)な心がけだな」


 俺に褒められて嬉しいのか、セシリアが頬を緩めた。


 セシリアがクッと胸を張る。


「わたしの夢は、一流の『魔剣士』になることですから」


 語るセシリアは誇らしげに映った。イキイキとして見えた。


 夢があるのはいいことだ。


 夢を叶えるために努力するのはいいことだ。


 努力を継続するのはいいことだ。


 だが、それが難しい。多くの者は夢を語るだけで終わる。夢を叶えるために努力を継続することは、思った以上に難しい。


 しかし、セシリアは夢を夢で終わらせないよう、努力を継続して習慣化している。素晴らしいことだ。友たちの子孫が向上心に溢れていて、俺は嬉しい。


 頑張る者は応援したくなるのが人情だ。セシリアに夢を叶えさせるため、俺も力になりたい。


 俺は提案した。


「よければアドバイスしようか?」

「いいのですか!?」


 セシリアがヒマワリのような笑みを咲かせる。


 (まぶ)しいばかりの笑顔に、俺も笑みで応じた。


「ああ。これからセシリアには世話になるからな。少しくらいお返しをせねば」

「少しなんかじゃありません! 充分すぎるくらいです! 『剣聖』であるイサム様に剣のアドバイスをいただけるなんて、願ってもないことです!」


 高揚(こうよう)しているのか頬を上気させ、セシリアが剣を抜く。


 刃渡り一〇〇セルチほどの、両刃の長剣。十字架に似た形状で、(つば)の中央に魔石がはめ込まれている。


 体の向きを変え、セシリアが()いてきた。


「よろしいですか?」

「構わん」

「では、お願いします」


 俺の頷きを確かめて、セシリアがまぶたを閉じる。


 柄にはめ込まれた魔石が灯り、セイバー・レイの刀身がオレンジ色のオーラに包まれた。


 セシリアがまぶたを開ける。柔和(にゅうわ)な顔立ちは凜々(りり)しく引き締まり、眉はキリリと上がっていた。


 剣士の顔つきになったセシリアが、セイバー・レイを中段に構える。


「――参ります」


 ヒュッ、と短く息を吸い、セシリアが一歩を踏みながらセイバー・レイを振り上げ――


「はあっ!!」


 鋭く振り下ろした。


 思わず、俺の口から「おっ」と声が漏れる。


 セシリアの剣舞は続く。


 振り下ろした体勢からさらに踏み込み、左から右への横()ぎ。そこから流れるように刺突。相手の反撃を想定しての防御から、弧を描くかたちでの斬り返し。


 一連の動作を終え、セシリアが残心の姿勢をとる。


 ふぅ、と息をつき、セシリアが体勢を戻した。


「いかがでしたか?」


 俺の感想は一言(ひとこと)に集約される。


「よかった」

「本当ですか!?」


 セシリアの瞳が輝いた。


「ああ。正直、驚いた。基本をしっかりと押さえた真っ直ぐな剣だ。少なくとも俺の時代において、これだけの剣を振るえれば、一角(ひとかど)の者と見なされる」


 セシリアが剣を振った瞬間にわかった。迷いのない踏み込み。(よど)みのない剣筋。あれは一朝一夕(いっちょういっせき)で身につくものではない。


 何年も何年も、日々の鍛錬を年輪のように重ね、体に刻み込まれた動きだ。長い積み重ねの成果だ。


 けちをつける点はひとつもない。だから俺は、純粋なアドバイスをセシリアに送る。


「欠点らしい欠点はないが、意地悪(いじわる)になれればさらに伸びるだろう」

「意地悪に、ですか?」

「セシリアの剣は基本に忠実だ。とてもよいことだが、実戦では相手を出し抜く狡猾(こうかつ)さも必要になってくる。真っ直ぐなだけでは読まれるからな」

「なるほど……」

「かなり高次元の助言だ。セシリアは基本から外れることを覚えたほうがいい。『守破離(しゅはり)』という言葉があるが、きみは『守』の段階――基本を忠実に守り、身につける段階を終えている。次は『破』――新たな考えや剣を学び、己の(から)を破るべきだ。そうすれば『離』――既存(きそん)の教えを離れ、己の剣を振るえる境地に至れる」

「はい! ありがとうございます!」


 セシリアがセイバー・レイを鞘に収め、ペコリと礼をした。(この)ましい反応だ。素直な者は伸びるからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ