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策謀と哀願と友達――12

 憤怒に顔を染め、歯を剥き出しにして、オルディスが吠える。


 同時、モンスターたちが青白い火の玉に戻り、(あるじ)であるオルディスのもとに(つど)っていった。


 青白い火の玉がオルディスに取り込まれていく。


 そのたびに、オルディスから感じる圧が濃くなっていく。


『魂魄隷従』によって、喚び出した死者の魂を己の力に変えているのだ。


「『剣聖』よ。魔法をかき消す()(かい)な剣技。あれは魔力の要を断つものだろう?」

「いかにも。それがどうした?」

「魔力の要を断つには刃を届かせなければならん。ならば、届かさなければ済む話よ」


 オルディスが牙を剥くように笑う。


 なるほど。死者の魂を取り込むことで魔力を高め、光弾に乗せるつもりか。


 オルディスの言うように、俺の破魔は魔力の要を断つ剣技。要に刃が届かなければ魔法は打ち消せない。


 ゆえにオルディスは、光弾の威力を極限まで高め、要に到達する前に刃を破壊しようと考えているのだ。


 オルディスの狙いを察したのか、セシリアの頬を汗が伝う。


「イサム様。回避しましょう」

「いや。オルディスの光弾はモンスターへと姿を変えられる。いくら回避しようと追尾してくるだろう」

「では、どうすれば……」

「真っ向から迎え撃つ」


 答え、俺は刀を上段に構えた。


 通称を『火の構え』。防御を捨て、相手を叩き斬ることにすべてを()けた、攻めの構えだ。


「俺の背にいろ、セシリア。決して傷つけさせはせぬ」


 微笑みかけると、セシリアは眉を立てた笑みを見せる。


「はい!」


 セシリアの笑みから、俺への絶対的な信頼が伝わってきた。


 その信頼の、なんと心地よいことか。


 心が(たぎ)る。活力が(みなぎ)る。魂が奮起(ふんき)する。


 感謝する、セシリア。いまならば、かけらも負ける気がせん。


 俺の口元は自然と()を描いていた。


 刀の(つか)を絞り込むように握る。


 深く息を吸い、長く吐く。調息(ちょうそく)により魂力を練る。


 練り上げる。


 ひたすらに、練り上げ、練り上げ、練り上げる。


 深く息を吸い、長く吐く。魂の底から魂力を()む。


 汲み上げる。


 ひたすらに、汲み上げ、汲み上げ、汲み上げる。


 いまや俺の魂力は、解放すれば天に届くほどに(たけ)っていた。


 その膨大な魂力を、薄皮一枚まで圧縮する。


 ……パチンッ


 超々高密度の魂力に耐えきれず、空気が破裂した。


 パチン……パチ……パチッ、バチッ、バチバチバチバチッ!!


 さながら紫電(しでん)励起(れいき)


 尋常ならざるエネルギーが俺の体に満ちていた。


「流石は『剣聖』! 見事な威圧(いあつ)!」


 感じ入ったように声を上げ、オルディスがバンパー・アンデッドの砲口をこちらに向ける。


「それでこそ潰しがいがあるというものよ!!」


 地響きを起こすほどの射出音とともに、光弾が放たれた。


 魔将の全力が込められた光弾は、翼を広げて(おおとり)へと変容する。


 王者のごとく、威風堂々(いふうどうどう)と鳳が羽ばたいた。


 羽ばたきの余波で大地がえぐれ、塵と化していく。


 とてつもない威力。すべてを()()す破壊の化現(けげん)


 恐れはなかった。


 燃えたぎるような熱が心に宿り、されど、頭は冷たく澄んでいる。


 鳳が迫るなか、なおも魂力を練り上げる。汲み上げる。


 構えた刀が魂力により研ぎ澄まされた。


 あとはただ、一心に振り下ろすのみ。


 獲物を目前にして鳳がいななく。


 俺と鳳の視線が交差した。


「いざ、尋常に勝負」


 振るう。




「秘剣の三――『雷轟(らいごう)』」




 その太刀は剛剣の極致(きょくち)純然(じゅんぜん)たる暴力。


 雷が落ちたかのような轟音。


 空間が屈したかのごとく、刃の軌跡が歪む。


 大気が(おび)えて真空が(しょう)じ、大地がおののき亀裂が走った。


 刹那の衝突。


 勝敗は明白。


 鳳が真っ二つに断ち切られ、背後の岩壁に衝突して青白い爆発を生んだ。


 オルディスが愕然と目を剥く。


「な……っ」

「勝負ありだな」


 そのときには、俺はオルディスの背後に回り込んでいた。


 縮地だ。


「お前の負けだ、オルディス」


 オルディスが振り返る。


 口を裂くように笑いながら。


「最後の最後で抜かったな、『剣聖』!」


 俺の足下から、青白い巨腕が出現した。

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