表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/116

策謀と哀願と友達――10

 ティファニーさんが右の刃を振りかぶる。


 落下の勢いを乗せて斬撃を放つつもりだ。


 それを待っていました!


 わたしはセイバー・レイを掲げ、膝をわずかに曲げて重心を落とす。


 ティファニーさんが刃を振り下ろした。


 刃が迫るなか、わたしは剛により膂力を高め、審眼によりタイミングを見極める。


 剣身に刃が触れた瞬間、わたしはセイバー・レイを傾けた。


 刃がセイバー・レイの剣身を滑る。


 受け流し。


 斬撃の向きを変えられ、ティファニーさんの体勢が崩れた。


 ティファニーさんが瞠目して――


「あなたの考えくらいお見通しよ」


 ニタリと笑う。


 ティファニーさんが滞空したままぐるりと一回転した。


 本来、体勢を崩したのなら地面に倒れるほかにない。しかし、ルーラー・テンペストの飛翔能力を用いれば、宙に留まることができる。


 ティファニーさんは、体勢を崩したことによる隙を飛翔能力で強引に潰し、わたしに追撃を見舞おうとしているのだ。


「オアー・ドラゴンとの一戦で受け流し(そのわざ)は見ている! おまけにあんなにもわかりやすく構えられたら、狙いなんて丸わかりよ!」


 嘲笑(ちょうしょう)とともに、ティファニーさんが左の刃を振るう。


 縦の回転斬りが繰り出された。


 狙いはわたしの左腕。食らえば、『聖母の加護』でも癒やせない重症を負う。


「経験不足が(あだ)になったわね、セシリアさん! 痛い目を見て後悔するといいわ! オルディス様に逆らった愚かさをね!」


 わたしの腕を斬り落とさんと刃が迫る。


 わたしが浮かべたのは笑みだった。


()()()()()()()()()


 一歩分のサイドステップ。


 振るわれた刃が(くう)を切る。


 ティファニーさんが愕然とした。


「なっ!? い、いまのタイミングで避けられるはずが……!!」

「ええ。気づいてから動いたのでは避けられなかったでしょう」

「なら、どうして……っ」

「簡単です。攻撃されることがわかっていたからですよ」


 ティファニーさんが突撃してきたとき、わたしは受け流しのためにセイバー・レイを構えた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 オアー・ドラゴンとの戦いで受け流しを見ているティファニーさんは、今回も使うつもりだと察するだろう。


 そのうえで、狡猾(こうかつ)なティファニーさんはこう考えるはずだ――『受け流しが成功すれば相手は油断する。油断したところをつけば確実に倒せるだろう』と。


 ティファニーさんがハッとする。


「まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていうの!?」

「はい。上手くいってよかったです」


 以前、イサム様から『意地悪(いじわる)になればセシリアはさらに伸びる』とのアドバイスをいただいた。『実戦では相手を出し抜く狡猾さも必要になる』と。


 我ながら、随分(ずいぶん)と意地悪になったと思う。イサム様から教えをいただかなければ、この境地にはたどり着けなかっただろう。


 イサム様に感謝しながら、わたしは右脚を一歩引いた。


 その足を軸に回転。


 同時にセイバー・レイを脇に構え、回転斬りの体勢に入る。


 受け流しで崩した体勢を整えるため、ティファニーさんは宙での一回転を行った。


 そのおかげでわたしへの追撃を繰り出せたが、強引すぎる動きによりバランスは完全に乱れている。


 わたしの回転斬りを、ティファニーさんは避けられない。


「やられはしないわ!!」


 回避は不可能だと悟ったティファニーさんが、両の刃を体の前でクロスさせた。


 刃に風が集い、渦巻き、圧縮されていく。


 結果、風は高密度の空気層となり、刃にまとわりついた。並大抵の斬撃では傷ひとつつけられない。それどころか、逆にセイバー・レイ(こちら)が断たれるだろう。


「無駄です」


 それでもわたしは確信していた。


 この一撃を、ティファニーさんは防げないと。


 丹田(たんでん)()った魂力をセイバー・レイの剣身にまとわせる。


 思い描くのは、魂力により刃が()()まされていくイメージ。


 武具の威力・耐久力を上げる武技『(れん)』。


 そう。今日までの鍛錬で、わたしは練を修得していたのだ。


 剣身にまとわせた魂力により、セイバー・レイのオーラが色味を変えた。鮮やかなオレンジ色から、まばゆいばかりの黄金色(おうごんいろ)へと。


 ()()は、イサム様をして「『剣聖』(おれ)の一太刀に等しい」と言わしめた剣戟。


 最硬すらも斬り伏せる絶対の斬撃。


 わたしはセイバー・レイを振り抜いた。


「『金剛両断(こんごうりょうだん)』!」


 一文字。


 金色(こんじき)剣閃(けんせん)


 ルーラー・テンペストの双刃(そうじん)があっさりと断ち切られた。


「バカな……っ!!」


 信じられないとばかりに、ティファニーさんが顔を強張(こわば)らせる。


 騙されていたとはいえ、味方だと思っていたティファニーさんを斬るのは複雑だ。


 それでもためらってはいられない。ティファニーさんは紛れもなく敵なのだから。


 心を鬼にして、わたしはセイバー・レイを上段に掲げた。


「これで終わりです!」


 袈裟懸(けさが)けの一撃。


 ティファニーさんの体に斜めの残痕が走る。


「が……ぁ……っ!!」


 ぐるりと白目を剥き、ティファニーさんが倒れ伏した。


 ふぅ、と息をつくと同時、全身に疲労がのしかかってきた。一瞬の油断も許されない状況で斬撃を凌ぎ続けていたのだから、仕方ない。


「けど、休んでいる(ひま)はないんです」


 荒くなった息を整え、上着の袖で顔の汗を拭い、わたしは振り返った。


 視線の先には、五〇〇は下らないだろうモンスターの群れ。


 そのなかで刀を振るい続けるイサム様の姿。


 イサム様が敗れるとは思えない。けれど、イサム様が相対しているのは、かつて勇者パーティー(ごせんぞさまがた)を苦しめた魔将だ。わたしがどれほどの力になれるかはわからないけど、黙って見ていることなんてできない。


「それに、エミィちゃんを助けるって約束しましたからね」


 キッと眉を上げ、わたしはイサム様に加勢するべく走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ