策謀と哀願と友達――5
迎え撃ってきた『魔の血統』をすべて倒し終え、俺とセシリアは洞窟内に入っていった。
洞窟を進むと、やがて円形の広場に出た。
目測で、直径およそ二〇〇メトロ。頭上が開けており、すっかり日が沈んだ空では月が玉座についている。
広場の中央にはエミィとティファニーがいた。
ティファニーの両腕には、翼と剣が一体化したような兵器が装着されている。魔族核が埋め込まれているのを見るに、顕魔兵装に違いない。
同じく、エミィも顕魔兵装を身につけていた。右腕に装着する大砲。俺たちが破壊しようとしていたバンパー・アンデッドだ。
俺とセシリアの登場に、ティファニーが眉をひそめる。
「やっかいな相手が来たものね。どうやってこの場所を嗅ぎつけたの?」
「エミィちゃんがダウジング・アミュレットをくれましたから」
セシリアがダウジング・アミュレットを見せると、ティファニーの顔が苛立たしげに歪んだ。
「なにしてんのよ、このクズ!」
「うぐ……っ」
罵声とともに、ティファニーがエミィの腹部を蹴りつける。
ティファニーの蛮行にセシリアが憤った。
「わたしの友達に乱暴したら、ただでは済ませませんよ!」
「なに? 美しい友情ってやつ? いいわねぇ」
嘲るように口端をつり上げ、「けど」とティファニーが続ける。
「その友情も今日ここまでよ。これはあなたたちと相容れない存在なのだから」
ビクリ、とエミィの肩が跳ねた。
「相容れない存在?」
「ええ。そうよ」
訝しむセシリアに、ティファニーがニヤニヤ笑いを浮かべながら告げる。
「エミィ=アドナイは『魔の血統』なの」
セシリアが言葉を失う。俺もまた戸惑わずにはいられなかった。
エミィが……アレックスの子孫が『魔の血統』だと?
俺たちの反応を面白がるようにクスクスと笑みを漏らし、ティファニーが語る。
「魔王討伐の報奨としてアドナイ家は上級貴族になったけど、魔導社会になったことで急速に地位を落としていったわ。強靱な肉体こそ持つものの、アドナイ家の者は魔法の才能に乏しかったから」
武技の腕や身体能力は超一流だったが、アレックスは魔法を不得手としていた。アレックスの子孫も同じらしい。
「当時のアドナイ家当主は栄光から転げ落ちていくのに耐えられなかったみたいでね。力を欲したのよ」
「その手段として魔族と交わったのか」
「ええ。おかげで彼の子孫は魔法の才に秀でていた。アドナイ家の地位も回復したわ」
けど、
「アドナイ家の栄光もそこまで。魔族と交わったことがバレて貴族位を剥奪されたの」
――あー……悪ぃな。詳しいことは俺たちにもわからねぇんだ。
なぜアドナイ家から貴族位が剥奪されたのか尋ねたとき、ギースは気まずそうにそう返した。
おそらくギースは、先祖が魔族と交わったことを知っていたのだろう。知ったうえで隠していたのだ。
勇者パーティーの一員が魔族と交わったなど、世界を揺るがすほどの大事件だ。国民の混乱を招かぬよう、当時の王家はこの事実をもみ消したと思われる。
アドナイ家の者にとって、先祖が魔族と交わったことは秘さねばならない汚点なのだ。
「貴族位を剥奪されたのち、アドナイ家はふたつの派閥に分かれたわ。魔族との交わりを間違いだったとする派閥と、正しかったとする派閥にね。最終的に勝利したのは反対派。正当を主張していた派閥は一族を追放されたわ」
語るティファニーは忌々しげに歯を軋らせていた。
秘匿事項だろうアドナイ家の真実を知っていることや、憤懣と憎悪が混じったこの表情から推測するに――
「ティファニー。お前はアドナイ家から追放された一族の子孫だな?」
「賢しいわね、イサムさん。その通りよ」
ティファニーはアドナイ家の事情を知っている。エミィが『魔の血統』であることを知っている。
そのうえで――
「お前はなにを企んでいる? なぜエミィを利用しようとしている?」




