策謀と哀願と友達――4
火球が、水弾が、風刃が、土杭が、雷槍が、氷棘が、光牙が、毒流が。
少なくとも五〇はあるだろう、ありとあらゆる元素が、俺たち目がけて飛来する。
無駄だ。
「疾っ!」
閃く刃。
走る無数の剣条。
一瞬のうちに連続で破魔を繰り出し、魔銃の一斉放火を難なく凌ぐ。
だが、凌がれることは想定内だったらしい。
破魔によりクリアになった視界に魔剣士たちが映る。
彼らはすでに接近を終えていた。魔銃の一斉放火。その真の目的は、魔剣士たちの隠れ蓑だったのだ。
「殺っタァアアアア!!」
魔剣士のひとりが魔剣を横薙ぎに振るった。
灼熱の炎を伴う斬撃が俺に襲いかかる。
「甘い」
俺はただ一歩後ろに下がった。
斬撃が俺の目前を通り、空振りに終わる。
間合いを完全に見切り、最小限の動きで回避したのだ。
魔剣士が目を剥く。
そのときには、俺の刀が魔剣士の胸を裂いていた。
「「「テメェ!!」」」
仲間をやられて激昂したのか、一気に三人の魔剣士が斬りかかってくる。
数で押すつもりか。いいだろう。真っ向から受けて立とうではないか。
俺は魂力を練り、全身にまとわせた。
剛により膂力を上げ、刀を脇に構え、振り抜く。
「破ぁっ!」
さながら竜巻。
猛然と振るわれた刃は三本の魔剣を断ち、三人の魔剣士をまとめて吹き飛ばした。
「クソッ! ちっとも歯が立たネェ!」
「『剣聖』は後回しダ! まずはこっちのガキを潰すゾ!」
魔剣士たちの狙いがセシリアに向けられる。
六人の魔剣士が俺を取り囲み、四人の魔剣士がセシリアへと駆け迫った。
俺を足止めしているあいだにセシリアを倒す算段のようだ。
「そいつは魔王様の器ダ。殺すなヨ」
「わかってるサ。だが、手足の一、二本は勘弁してくれヨ」
口端をつり上げながら、魔剣士たちがやり取りをする。
『聖女』マリーの血を濃く継いだセシリアを、『魔の血統』たちは、魔王の魂の器として利用するつもりでいる。
ゆえに、『魔の血統』たちはセシリアを殺められない。だが、殺めさえしなければなにをしても構わないと考えているようだ。
セシリアに迫る魔剣士たちはニヤニヤ笑いを浮かべている。セシリアにならば楽に勝てるとでも思っているのだろう。
対し、セシリアは静かにまぶたを伏せ、ゆっくりと呼吸した。
セシリアの丹田で魂力が練られ、両脚に集う。
同時、セイバー・レイの刀身がオレンジ色のオーラに包まれた。
セシリアがまぶたを上げる。
「参ります」
刹那、セシリアの姿がブレた。
「「「「……は?」」」」
セシリアを襲おうとしていた魔剣士たちが間の抜けた声を漏らす。
セシリアが駆け出した。
目にもとまらぬその速度に、魔剣士たちは対処ひとつできない。
疾風を用いたセシリアは、魔剣士たちのあいだを縫うようにすり抜けていった。
絹のごとき滑らかさ。蝶のごとき優雅さ。風のごとき素早さ。
魔剣士たちの脇をすり抜けるたび、セシリアはセイバー・レイを閃かせる。
セシリアが最後の魔剣士の脇を通る。
残心。
血しぶきをまき散らし、四人の魔剣士が倒れ伏した。
俺を取り囲んでいる六人の魔剣士が愕然とする。
「「「「「「なぁっ!?」」」」」」
「セシリアを侮るとは愚かな。『剣聖』の自慢の弟子だぞ」
ついでに忠告しよう。
「油断は禁物だ」
刀を横に薙ぐ。
新たに六人の魔剣士が脱落した。
数多の斬撃が振るわれる。
幾多もの銃撃音が響く。
だが、その一切が俺たちには届かない。
魔剣士が次々と斬り伏せられ、魔銃の砲撃はことごとく打ち消される。
「ど、どうなってんだヨ……こっちは一〇〇人以上いるんだゾ? 相手はたったふたりなんだゾ? なのに、どうしてこっちがやられてんだヨ……手も足も出ないんだヨ……」
魔銃士のひとりがカチカチと歯を鳴らす。
顔色が絶望に青ざめ、魔銃を握る手はカタカタと震えていた。
やつらは間違えたのだ。
俺たちの逆鱗に触れてしまったのだ。
『剣聖』とその弟子に敵うわけがない。
俺とセシリアを怒らせて、ただで済むわけがない。
怯える魔銃士に向かい、俺は駆ける。
「アアアアァァァァアアアァァァアァァアァァアァァアアアアアアアッ!!」
魔銃が乱射された。
迫り来る水弾。
破魔。
告げる。
「もう一度言おう――容赦はせぬ」
斬り捨てる。