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策謀と哀願と友達――1

 スキールへの報告を任された俺とセシリアは、ティファニーが滞在(たいざい)しているホテルに向かった。


 ホテルに着く頃には日が暮れていた。


「ティファニー=レーヴェンの連れの者です。通話室(つうわしつ)を使わせていただきたいのですが……」

「かしこまりました。どうぞこちらへ」


 フロントでセシリアが頼むと、対応した男性が腰を折り、俺たちをフロントの脇にある小部屋へと連れていく。


「こちらです」

「ありがとうございます」

「助かった」


 案内してくれた男性に礼を言って、俺とセシリアは小部屋に入った。


 四人入室するのがやっとというほど狭いこの小部屋は通話室と呼ばれるもので、遠方にある通話室へと己の声を送ることができるらしい。ホークヴァン魔導学校の演習場のように、設備そのものが魔導具になっているのだ。


 通話室の中央には魔石が埋め込まれた台座(だいざ)がある。おそらく、この魔石には通信魔法の魔法式が組み込まれているのだろう。


 セシリアが台座に手をかざし、魔力を送り込む。


 台座が薄緑色に発光すると同時、通話室の内部に女性の声が(しょう)じた。


『はい。ホークヴァン魔導学校でございます』

「そちらに通っていますセシリア=デュラムと申します。ホークヴァン校長とお話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」

『セシリア様ですね。少々お待ちください』


 女性が(こころよ)く応じる。俺やセシリアから連絡があったら自分に()()ぐよう、スキールが伝えていたのだろう。


 一分ほど待つと、ドアの開閉音が聞こえ、続いてスキールの声がした。


『待たせたね、セシリアくん。イサム様もそちらにいらっしゃるのかな?』

「はい。隣に」

『例の件に進展があったのかい?』


『例の件』とは、当然ながら顕魔兵装に関することだ。


 セシリアに代わり、「うむ」と俺が答える。


「顕魔兵装のありかを突き止め、いまさっき突入してきた」

次第(しだい)はいかがでしょう?』

「保有していた組織を潰し、顕魔兵装の奪取(だっしゅ)に成功した。まもなく破壊する予定だ」

『それはなによりです』


 安堵(あんど)の息をつき、スキールが続けた。


『順調に進んでいたようで安心しました。いままで連絡がなかったので、いかがされているのかと心配していたのですよ』


 スキールの発言に、俺は怪訝(けげん)を覚えた。


 眉をひそめつつ指摘する。


「連絡がなかった? ティファニーが何度もしていたはずだが……」

『ティファニー?』


 スキールの声が戸惑(とまど)いの響きを帯びた。


『ティファニーとは誰でしょうか?』

「ティファニー=レーヴェンだ。お前が同行者としてよこしてくれたではないか」


 スキールの返答は予想だにしないものだった。




『私が同行を頼んだのはグレアムだけですよ?』




 愕然(がくぜん)とするほかにない。


 俺とセシリアは言葉を失う。


「ど、どういうことでしょうか、イサム様? ホークヴァン校長が送り出してくれた同行者がグレアムさんだけだとしたら、ティファニーさんは何者なのでしょうか?」


 セシリアの瞳は困惑に揺れていた。


 セシリアの心情はとてもわかる。俺もまた、不可解(ふかかい)な現状に戸惑っているのだから。


 戸惑いが深まり、胸騒ぎを呼び起こす。


 俺の頭に疑問が浮かんだ。




 ――イサム様、セシリア様、ティファニー様、お待ちしておりました。スキール様より案内役を(おお)せつかりました、グレアム=ゴードブルと申します。




 初対面時、グレアムは俺たちにそう言った。


 いま思い返せばおかしな発言だ。


 俺に対してならばわかる。


 セシリアに対してならばわかる。


 だが、なぜグレアムは、ティファニーに対して『お待ちしておりました』と言った?


 グレアムとティファニーは案内役同士。ともに俺とセシリアを迎えに来た者たちだ。


 だとしたら、『お待ちしておりました』と言うのはおかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺は推察(すいさつ)する。


 スキールの言葉が真実だとすると、ティファニーは部外者だ。俺とセシリアがパンデムに向かう情報をどこからか入手し、グレアムに接触したと考えられる。


 ティファニーは自分のことを『デュラム家の使い』とでも(いつわ)ったのだろう。そうしてグレアムを(だま)し、俺とセシリアを迎えに行った。


 のちに、俺とセシリアを連れてグレアムと再合流。まんまと同行者になりすましたわけだ。


「……どうやら、俺たちはずっと勘違(かんちが)いしていたらしい。ずっとティファニーに騙されていたらしい」


 部外者にもかかわらず、ティファニーは俺たちの使命を知っていた。


 顕魔兵装や『魔の血統』の存在も知っていた。


 そのうえで同行者と(かた)り、俺たちの味方として接していた。


 つまり――


「真の敵はティファニーだったのだ」


 眉根を寄せて歯がみする。


 ティファニーが敵だとしたら、現状は最悪なのだから。


 顕魔兵装であるバンパー・アンデッドが、真の敵である、ティファニーのもとにあ

るのだから。


 問題はそれだけではない。


「真の敵がティファニーさんだとしたら、エミィちゃんは……」

「間違いなく危険にさらされるだろうな」




 ――わたしはウォルスさんについて行きます。イサムさんとセシリアちゃんには、スキール様への報告をお願いします。

 ――それから、協力してくれたお礼をしたいから、エミィちゃんにはわたしについてきてもらっていい?




 俺とセシリアに別行動を取らせ、ティファニーはエミィを連れていった。


 ティファニーの指示は、俺とセシリアを、バンパー・アンデッドだけでなくエミィからも()()がすためにしたものと考えられる。


 すなわち、エミィまでもがティファニーに狙われていたということだ。


「は、早く助けないと!」


 セシリアが血相を変えた。


 俺もセシリアと同じ気持ちだ。


 我が友、アレックスの子孫であるエミィが、敵であるティファニーとともにいる。毒牙にかけられようとしている。


 させぬ。


 許さぬ。


 友の子孫を害する者は、誰であろうと許さん。


 憤怒(ふんど)の炎が燃え上がり、俺を修羅(しゅら)へと変える。


「行くぞ、セシリア。ティファニーの(たくら)みを潰す」

「はい!」

「スキール。急ぎの用ができた。すまないが切る」

承知(しょうち)しました。お気をつけて』


 聡明(そうめい)なスキールは、これまでの会話である程度状況を(さっ)したらしく、なにも()かずに俺たちを送り出してくれた。


 通話室を飛び出した俺とセシリアは、ホテル内の人々が目を丸くするなか、疾風(はやて)を用いて速度に乗った。

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