捜査と賭博と激突――11
「やりましたね、イサム様!」
戦闘が終わり、セシリアが明るい顔を見せた。
「ああ。大事はないか、セシリア」
「いくらかケガを負ってしまいましたけど、『聖母の加護』で治ったので大丈夫です!」
「そうか。よく頑張ってくれた」
俺が頭を撫でると、セシリアは「えへへへ」と緩んだ笑みを浮かべる。飼い主に褒められて喜ぶ犬を連想させる笑顔だ。
労っているこちらが癒やされる。セシリアの純朴さがなせるわざだな。
「あとはバンパー・アンデッドを破壊するだけか」
セシリアにつられて目を細めてから、俺は最後の仕事に向かう。
俺がきびすを返した――そのとき。
「ぐ……おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
バンパー・アンデッドに乗っ取られている男が絶叫した。先ほどまでのうめきとは異なる、苦痛が色濃く湛えられた叫びだ。
男を組み伏せているティファニーが、「なあっ!?」と動転する。
男がジタバタと激しくもがく。ティファニーに押さえ込まれながらあれだけ暴れては、骨や筋を痛めてしまうだろう。
俺はすぐさま指示を出した。
「ティファニー! 一度解放してやれ!」
「は、はい!」
ティファニーが男を解放する。
なおも暴れる男のもとへ、俺とセシリアは駆け寄った。
男はバンパー・アンデッドを装着している腕を、もう片方の手で押さえている。バンパー・アンデッドを装着している腕には、ミミズ腫れのような脈が浮かんでいた。
セシリアが息をのむ。
「まるで侵食されているみたいです」
「ああ。この苦しみ様も尋常ではない」
思えば、バンパー・アンデッドはほかの顕魔兵装とは違っていた。顕魔兵装は使用者の体を乗っ取るが、意識まで奪うことはなかったのだから。
どういうことだ? 使用されている魔族核が原因か? よほどの高位魔族の魔族核が使用されているということか?
「イサムさん。この状況で顕魔兵装を破壊するのは危険じゃないですか?」
考えを巡らせる俺に、ティファニーが指摘する。
「なぜかはわかりませんけど、顕魔兵装はこのひとと強く結びついてるみたいです。いま破壊したら、このひとにも危険が及ぶんじゃないでしょうか? まずは医者に診せたほうがいいと思います」
「一理あるな」
「けど、お医者様にどう説明すればいいのでしょうか? 流石に顕魔兵装のことは明かせませんし……」
セシリアが眉をひそめた。
セシリアの言うとおりだ。男の状況を説明するには、顕魔兵装や『魔の血統』のことも明かさなければならないだろう。
だが、この時代の魔族は根絶されていることになっている。魔族核が使用された兵器や、魔族の血を継ぐ者の存在を知られれば、いらぬ混乱を招く恐れがある。
「終わったみたいッスネ!」
どうしたものかと顔をしかめていると、ウォルスの声が聞こえた。こちらの様子を見に来たようだ。
「俺たちと交戦してたヘルブレアのメンバーは全員拘束しましたヨ! あとはここにいるやつらだけッス!」
うずくまっているディーンを目にして俺たちの勝利を確信したのだろう。ウォルスの顔は明るい。
なにかを思いついたかのように、ティファニーがハッとした。
「ウォルスさん! ピースメーカーにかかりつけの医者っていませんか!?」
「それなら医療部隊がありますけド……どうしたんスカ?」
「看てほしいひとがいるんです!」
突然の頼みにキョトンとしているウォルスに、「実は――」とティファニーが事情を話し出す。
なるほど。ピースメーカーはすでに、魔族核と『魔の血統』の存在を知っている。ピースメーカーの関係者に診せれば問題ないと、ティファニーは考えたようだ。
ティファニーから説明を受けたウォルスは、神妙な顔つきで頷いた。
「了解ッス。まずはこのひとと、そこに転がってるやつを運び出しましょウ」
ウォルスは団員に指示を出し、バンパー・アンデッドを装着している男とディーンを担架で運び出させた。
俺・セシリア・ティファニーも地上に戻り、団員やエミィと合流。
団員やエミィとも事情を共有したのち、ティファニーが俺とセシリアに頼んできた。
「わたしはウォルスさんについて行きます。イサムさんとセシリアちゃんには、スキール様への報告をお願いします」
「承った」
「それから、協力してくれたお礼をしたいから、エミィちゃんにはわたしについてきてもらっていい?」
「うん。わかった」
それぞれの次の行動を決め、俺たちは教会の外に出る。
二手に分かれる前に、セシリアがエミィに別れの挨拶をした。
「それじゃあ、またね。エミィちゃん」
「うん……バイバイ、セシリアちゃん」
セシリアとエミィが笑い合う。
なぜだろうか? エミィの笑顔は寂しげに映った。