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そして、ピリオドを。  作者: モナ
5/9

駅で見かけた女性は、

 今日から配属先の基地が変わった。


 幼い頃から憧れていた僕は、27歳という若さで陸軍の中佐の立場になった。僕は仕事にやりがいを感じている。

 この街に来ることになった時は、何かを期待していた。数日前に、たまたま他の用事でこの街を訪れていた僕は、一人の女性に一目惚れという経験を初めて味わった。


 彼女の名前は分からない。長くて綺麗な黒髪、遠くからでも分かる切れ長の大きな目、高い鼻筋。身長はさほど大きくはなかった。黒いロングコートを羽織った彼女は、路上暮らしをしている駅のホームに座り込む老人に、食べ物を分けていた。

 なぜだろう。これまでもホームレスに何かを与えている人は何度か見てきた。しかし、彼女は特別輝いて見えた。

 老人と少しだけ会話を交わし、彼女はそのままどこかへ去った。まるで風のように。一晩だけ積もり、翌朝の太陽で溶けていく雪のように。冷たい空気だけれど、どこか暖かくて神秘的。

 

 彼女は、僕のことを知っているのだろうか。いや、知るはずがない。僕がこの世に存在することすら知らない。僕は知っているのに。


 「今日からこの基地に配属になった。チャ・ジフです。よろしく」


 職場の基地で、簡単に挨拶を終える。若手の中佐は珍しいのか、注目されていた。話している間、こちらを他の人とは違う、睨み付けるような視線を送ってくる男がいた。


 「ちなみに俺も、27歳で中佐だから」


自己紹介が終わって、周りが散らばり始めると、男は近寄ってきて、そう話し掛けてきた。

 「イ・テヒョン。よろしく」

いけ好かないやつ。さっきの自慢じみた自己紹介には好印象はもてない。

 「ああ、よろしく」

一瞬で合わないタイプのやつだって分かったから、無愛想に返事をした。



 初日の勤務を終えて、最寄りの駅へ。また、彼女に会えないのかと少し期待をした。今日会えなくても、また明日、そのまた次の日。毎日のようにこの駅を通る。駅じゃなくても、街のどこか。次会えたときは、必ず話し掛けよう。


 駅のホームに行くと、彼女から食べ物をもらっていた老人の姿はどこにも見当たらなかった。



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