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そして、ピリオドを。  作者: モナ
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名前は捨てた

「イ・テヒョン」


 まさかとは思ったけど、「イ」という名字も、「テヒョン」という名前もよくいる方だ。

 私の役目は、生死をさまよう人間をあの世に案内すること。何百年と一人孤独に与えられた仕事をこなしてきた。

 あの男は私に言った、「願いを叶える」と。しかし、それは残酷なものでいつなのか、何年、何百年後なのかわからない。だから私はただ、黙々と仕事を果たし、また彼に会える日を待ち続けている。



 そこは戦場地だった。かすかに息をする音が聞こえてた。


 人間は醜い。自由を求めて自分の意見を社会に伝えるために、罪のない人を巻き込んで、争いをする。第二次世界大戦の時は本当にひどかった。毎日、何百人という人々をあの世に案内した。 

 現在は、死者の人数は減ったものの、それでも争いで命を落とす者は未だにいる。今日迎えに行く、この人間もそうだ。


 息の聞こえる方へ向かう。銃弾が鳴り響く戦場地で血を流し、死にかける男がいた。ゆっくりと近づく、私は目を疑った。



 「テヒョン、」



そこには、待ち続けた愛しい人の姿が。


 「そんなところにいたら死ぬよ?」


 話し掛けてきたのは彼だった。話し方があまりにも、私の知っているテヒョンとは違っていた。やはり、違うのか。いつも通り彼をあの世に導くことにした。


 

「約束も守れなかった」


この言葉を聞いて、私は彼の運命を変えてしまった。



 病院で目を覚ました彼。案の定周りの医者たちは、奇跡的な回復に驚いていた。人間には理解できないようなことだから。しかし、私たちの様な存在は、人間の命を生かすのも、終わらせるのも簡単なことだった。


 「運命を変えたな」


 後ろに感じる、男の存在。私を不老不死に変えた男は、あれから何かと気に掛けては、仕事を与えてくるのだ。顔も名前も知らない、人間で言うところの、「創造主」「神」のような存在なんだろう。

 「…彼は、テヒョン?」

男に聞いた。

 「ああ、イ・テヒョンだ」

 「そうじゃなくて、私の知ってるテヒョンなの?」

 「さあな」

 「神にも未知のことがあるのね」

質問の答えをはぐらかされ、腹が立った私は嫌みっぽくそう言った。


 「人間の運命を変えることは許されてない」

 「知ってる。ペナルティでも何でも受ける」


 人間の命を簡単に扱えると言ったけれど、禁じられていることでもあった。生と死の均衡が保たれなくなるから。


 「もうペナルティは発生した」


それだけ言い残し、男は消えていった。



 病院の向かいのビルの屋上から、彼の病室を眺めた。話し方は違ったけれど、顔はテヒョン以外の何者でも無い。約束がなんなのか気になった。ただ、それだけで私は彼の運命を変えてしまった。


 彼は私の知るテヒョンではないが、どうしても気になってしまい、しばらく見守ることにした。

 約束は、現世の婚約者との結婚だった。そんなことを聞くために、私はペナルティを受けることになったことが、少し腹立たしくもあった。



 1週間後、彼は病院を退院し、婚約者の車に乗って、アパートに向かった。

 私は、2人の1日を眺めていた。1つのテレビでドラマを見て、特別なことは何もなく、楽しいのか疑いたくなった。


 ソアという女が帰る準備をし、玄関に向かった。リビングからいなくなったすきに、私は彼の部屋に入った。手を使わなくても、私の能力のような力で、部屋に入ることは簡単だ。2人が玄関で愛を育んでいるの少し呆れながら待った。


ガチャン

 玄関が閉まる音がして、足音がリビングに段々と近づいてくる。頭を雑にかきながら、リビングに戻ってきた彼は、私を見て、3秒ほど動かなかった。時が止まったのかと勘違いしてしまいそうなほどに。


 「うわあ!何でいるんだよ」

 「確かめたいことがあって」

 「いくら死神だからって、不法侵入だぞ」

 「私のこと思い出せる?」

 「当たり前だろ、死神」

 「そうじゃなくて、」


もしかしたら、前世の記憶を思い出せるかもと。


 「生まれてくる前の記憶とか」

 「は?思い出せる人間がいるわけないだろ」

 「ちょっとは努力しな。私はあんたのためにペナルティ食らってるんだから」

 「死神にもそんなのあるんだな」

 「やっぱり人違い。生かすんじゃなかった」

 「聞こえてるんだけど」

本当に私の勘違いだったら、本当に損しただけになってしまう。私はやっと願いが叶ったと彼を救ったのに。

 「紛らわしい名前」


ぽかんとする彼にそう言って、去ろうとする。


 「待って」


 「今度は何」

 「名前は?」

突拍子のない質問に、今度は私が動きを止めた。


 「名前?死神とでも言えばいいわけ?」

 「違う。俺はイ・テヒョン。君は?」

 


 「名前はない」

そう言って、彼の部屋から姿を消した。


 あの親が付けた名前など、とっくの昔に捨てた。







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