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そして、ピリオドを。  作者: モナ
2/9

死を導く者

銃声が鳴り響く戦場地。国の軍人はテロ組織との戦いを激化させていた。


 「危ない!」


放たれた銃弾は、男の胸部を射止めた。

 「中佐!!」

 「早く逃げろ」

若手をかばった中佐は、大量の血を流し、戦場地で倒れ込んだ。

 「ここは安全じゃない、1度退却するぞ」

大佐は声を掛けると、合流地点に向かって走った。

 「中佐、行きましょう」

 「だめだ、お前だけ早く行け!」

 「でも、」

 「軍人ならば、今の状況がわかるだろ。…期待してるからな、ルイ」

 「…必ず、助けに戻ります」

涙ぐむ若手軍人は、悔しい顔で彼の元を去って行った。


 出血多量で段々と顔色が青ざめていく。意識がもうろうとしている中、目を疑うものを見た男は、一瞬にして目を見開いた。

 銃声が未だに鳴り響く中、危険な戦場地に堂々と立ち好く女の姿。女は、こちらを哀れみの目で見ていた。


 「そんなところにいたら死ぬよ?」

 「他の人には見えてないの、私」

 「はは、冗談言ってる場合じゃないと思うけどね」

不思議と周りの音は聞こえなくなり、まるで女と自分だけの世界になったかのようだった。


 「本当に瓜二つね。あなた名前は?」


女は冷静に訪ねた。

 「ごめん、自己紹介してる余裕無いんだよね。俺さ、大量出血中」

あまりにも冷静な彼女を前にして、彼は無意識に笑みがこぼれてしまった。

 「知ってる。私はあなたを導くために来たの」

 「もしかして、幻覚でも見えてるのか?俺」

 「現実よ。あなたは今、生死を彷徨っている」

 「なるほどね。じゃあ、君は死神か?」

 「ずいぶん物わかりが良いのね。人はみんなそう呼んでる」

淡々と話しが進む中、男は女に尋ねた。

 「死神さん、俺は死ぬのか?」

 「だから、私がきた」

 「そうか」


さっきまで冗談を言っていた男は急に悲しい表情で、ぽつりとつぶやいた。

 「あいつとの約束も守れなかったな」

彼はゆっくりと目を閉じて動かなくなった。

 「約束…」




 それから目を覚ますと、周りが慌ただしかった。ぼやぼやとする目が、ピントを合わせてくれるまでには少し時間がかかった。

 「先生!目を覚まされました」

よく見ると、真っ白な天井。自分の周りを慌ただしく動き回る白い服を着た人たちは、その言葉でピタッと動きを止め、ゆっくりとこちらをみた。


 「…俺、何があった、」


 白衣をきた50代くらいの男が、肩を掴み不思議そうに俺を見ていた。

 「き、気分はどうですか?」

 「どう、って普通です」

 「ご自身の名前、わかりますか?」

 「イ・テヒョン。27歳、男。職業軍人。以上」

 1聞かれると10返してしまう俺の悪い癖は、こんな時でも出てしまう。


 「よかったです」

男は安堵した様子で、俺の肩に置く手に力を入れた。

 「あの何があったんですか?」


やっと分かってきたのは、とりあえずここは病院であること。周りを囲む医療従事者の安堵具合を見るに、俺は結構危ない状況だったのかも知れない。

 「戦場で撃たれたことは覚えてますか?あの後、お仲間があなたを探しに行ったんですよ。何時間も経過していたのに、わずかにあなたの脈拍が動いていて…本当に奇跡としか言いようがないですよ!テヒョンさん」

 

どうやらあの後、俺は助かったらしい。

 「なんか、ありがとうございます…そういえば、近くに女の人いませんでした?」

確かに見た、会話もした。あの女は本当に死神だったのだろうか。


 「女の人ですか?いたのはあなた一人でしたよ」

 「そうですか」

あれは幻覚だったのか。死神なんて、映画の世界じゃあるまいし。



 「テヒョンさん!!」

 検査を終えて、病室へ戻るとルイがいた。俺がかばった後輩にあたる軍人だ。

 「何で泣きそうな顔してんだよ」

 「だって、僕のせいで」

 「お前のせいじゃないだろ。テロを起こしたのはお前のせいなのか?」

 「そうじゃなくて、、」

 「とにかく助かったんだから。そんな顔すんなよ」

 「はい、一生着いています」

ルイは、俺の班に分けられた新人軍人。すごく慕ってくれている。

 「今日は休みたいから、帰ってくれ。報告書、俺の代わりに頼むよ」

 「はい。命の恩人です、何でもします」

彼は、騒がしく病室を後にした。




しばらくすると、

 「テヒョンさん。テヒョンさん」

高い声が俺の名前を呼ぶ。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。

 「ごめんなさい。何ですか?」

 「検査が入りましたので、起きてもらっても良いですか?」

検査?さっき全部終わったって、あの医者が言ってたのに。

 


ガラガラ

 後ろのドアが開いて、白衣を着た女の人が入ってきた。女医か、珍しいななんて思う余裕があったが、その女医の顔がはっきり見えた時、俺は心臓がぎゅっとなった。

 「それでは、失礼します」

起こしてくれた看護師は、部屋から去って行った。

 沈黙が続く部屋、ベッドの前に立つ医者は、死にかけていた戦場地で突然現れた、あの女だった。女はただ黙って俺を見た。


 「ど、どこかでお会いしましたかね」

わかりやすい嘘で、俺は沈黙を破った。彼女が本当に死神ならば、俺を迎えにきたのではないか?


 「なぜ聞かないの?」

 「え?」

彼女の存在が何かわかっていた俺は、いざ聞かれると感情は『恐怖』で埋め尽くされた。


 「知らないふりをする必要はない」

 「また幻覚でも見てるのか、俺」

 「現実逃避が好きなのね」

 切れ長の目、スッとした鼻筋、少し薄い唇。周りと比べれば、目立つ顔の彼女。

 「ちなみに、あなたの考えは聞こえてきちゃうから」

 「な、なにが?」

 「目立つ顔」

 「なんで分かるんだよ!!」

俺の気持ちや考えが読まれるってことなのか?

 「その通り」

 「読むのやめろって」

 「なら、考えず言葉に発しな」

考えたら余計なことまで伝わりそうだな。なら言葉にした方がいいかも知れない。

 

 「なんで俺生きてんの?」

 「私が生かしたから」

 「え?」

 まさかの言葉に、今まで恐怖で顔をしっかり見れなかった彼女の顔を見つめた。

 「君が生かしたの?何で?死神なのに」

 「気になることがあったから」

 「気になることって、、なに」

 「最後に、約束を守れなかったって…どういう意味」

 「そ、それ?」


 こんなことと言っては何だが、そんなことで俺を生かしてくれたことに驚いた。

 「答えて、約束って何?」

 「答えて期待通りじゃなかったら、俺死ぬのか?」

 半分冗談だけど、半分本気。彼女は少しも笑わず、じっとこちらを見ていた。今すぐにでも、あの世に連れてくぞって顔で。

 「結婚だよ」

俺がそう答えると、

 「結婚?」

彼女は拍子抜けしたような顔になり、表情が少し緩んだ。

 「そうだけど、何が気になったんだよ」

 「誰との?」

 「それは、恋人以外にいなくないか」

すると彼女は、

 「なんだ」

がっかりしていた。


 「どんな答えを期待していたんだ」

 「関係ない。もう用はなくなったから」

 元々冷たい目線で見られていたが、更に興味が無くなったのか、そそくさに病室から出ていこうとする彼女。


 「待って」


 なるべく死神とは長い時間を過ごしたくはなかったが、ここで帰らせたら一生会えない気がした。

 「俺、普通に生きていけるの」

右手をドアノブに掛け、こちらを見ずに答えた。


 「私が運命を変えてあげた。ただの勘違いだったけれど」

 

 「ありがとう、助けてくれて」


 ただ、この言葉を伝えてあげたかった。死神だろうと何だろうと、彼女の目の奥に闇が見えた。死にそうになった俺なんかよりも、哀れだった。

 「助けてない。運が良かったと思って」


 彼女は、病室を去った。


 少し薄暗かった部屋に、太陽の光が差し込み、オレンジ色の柔らかい雰囲気に包まれた。

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