第8節【飛竜隊】
飛竜と闘うには、動きを止めさせる必要がある。
竜族の中では比較的に、下位に位置づけされる種族ではあるのだが、それでも人間の手にはあまる存在であった。
高い知能を有しており、空中を縦横無尽に飛翔する敏捷性がある。地を這うことしか出来ない生物には、飛竜を捉えることは艱難を極めていた。
それを可能にするには、その性質を識らなければならない。
ダイナー帝国が有する飛竜隊は、飛竜の生態を識り尽くしている。何処に生息して、どういった獲物を狩るのかも、習性も全て理解している。
野生の飛竜を捉えることは、彼らにも難しい。だが卵を奪うことは、そう難しくはない。故に卵から孵った飛竜に、己が親だと刷り込むことが可能なのだ。
幼竜の段階で飛竜は、空を飛ぶための『風』を手に入れる。飛竜が空を飛ぶ原理は、翼による浮力だけではない。独自の魔力コントロールによって、風を操っているのだ。その能力は生後、すぐに発現する。
飛竜種は大別すると、三種類の属性に分類することができる。
光属性を持った特殊な飛竜。
これは飛竜種で唯一、上位種の竜族に分別されている。
聖地アリアドスに近接するようにして聳える霊山レディントン。
その頂上にのみ生息しているため、容易に人が足を運ぶことすら儘為らない。彼らは非常に強い魔力と、言葉を介するほどの知能をあわせ持っている。
風属性の飛竜が一般的に識られているが、その生息地は疎らでダイナー帝国ではあまり目撃されていない。
飛竜隊が主に騎乗する飛竜は、火属性である。
ダイナー帝国周辺の魔力は、高濃度な火属性の魔力を帯びている。火山帯の付近に群棲しているせいか、火属性の魔力を多く取り込んでいるのだ。
機動力は光、風、火の順で飛竜種の中では比較的に鈍重な種ではあるが、それは飛竜種のなかでのことである。
人が相手どるには、充分に素早かった。
「各員、飛行しながら敵を殲滅しなさいッ!!」
エアリゼの号令を受けるまでもなく、彼らは飛行態勢に入っている。
無数に飛び交う飛竜の上で、飛竜隊の面々が詠唱陣を錬成し始めていた。ある飛竜は敵兵に目掛けて急降下をして、騎乗する兵がそれに合わせて槍による刺突を放っている。擦れ違いざまに敵兵が血飛沫を上げて、後方に吹き飛んでいた。
飛びながら火を吐く飛竜もいた。業火に包まれて、全身が炎上する敵兵。
生きたまま、焼かれているにも関わらずに悲鳴の一つも上がらない不気味さがあった。
敵兵の全てが、感情や痛覚といった人間らしさが欠落しているようである。
戦況は一方的であった。
詠唱陣の完成と共に、飛竜隊の魔術が次々に敵兵を屠っていく。ダイナー帝国が誇る飛竜隊の力は、敵兵の反撃を赦さなかった。
圧倒的に有利な戦局を見て、エアリゼは静かに離脱していく。敵の数は多かったが、問題はないように思えた。実際にエアリゼが抜けて暫くしても、飛竜隊の勢いは止まらない。
飛竜隊の大勝は確実かと思われたが、不意に戦局が傾く事となる。
グラナス王が現れたのだ。虚の眼には、絶望的な闇を湛えている。
周辺を包む魔力には、異常な狂気が宿っていた。
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