第5節【グラン】
「安心しろ。兵には、手を出させない。お前は、俺の獲物だッ!!」
間合いを詰めようとするグランに、槍を衝き出した。刺突を躱し、右剣の腹に添わせながら、グランが突出してくる。間合いだけで言えば、双剣よりも槍の方が遥かに有利であったが、あっさりと間合いを破られている。
その様に、異様な気迫を感じた。ある種の覚悟にも似た怒りのような感情だと、何とはなしに思った。何故、そう思ったのかは正直、自分でも解らない。
カイラートは呪文の詠唱を舌で転がしながら、グランの動きを予測する。突進力を利用しながら、左剣による突きが飛んでくる可能性は非常に高い。グランとカイラートの力量に、差異はほとんどと言ってないだろう。攻撃を認識してから、反応していては余りにも遅すぎる。いかに相手の動きを読むのかが、明暗を分けるのだ。
にも拘わらずに、グランは感情によって動いているように感じられた。だからこその突進であるし、迷いがない分、速くて手がつけられないのだ。
自分自身が生み出した詠唱陣と、グランが生み出した詠唱陣が、奇しくも重なった。槍の重心を左にわずかに逸らしながら、左に半身を捻ってグランの突きを躱す。先程までグランと密着していた槍は、すでに充分な間隙を得ている。
――詰まるところ、こちらに有利な射程圏である。
槍を掬い上げるようにして、切り払う。
後ろに飛んで、躱すのは解っていた。詠唱陣が完成していることも、把握している。
互いの術が放たれるのは、同時であった。両者の術式は、全く同じである。だからこそ、相殺し合ってリセットさせた。
二つの火球が打つかり合って、爆炎が上がる。城内の至るところが、衝撃で打ち捲けられている。爆炎が収まる前に、カイラートが動いていた。
「何故、お前は闘う?」
「俺が、王だからだッ!!」
カイラートの槍を受けながら、グランは問い掛けに答える。
爆炎の残滓が、両者の肌を焦がしていく。
「国の異変に、気付いていない訳ではあるまい?」
「俺だって、この国が壊れている事ぐらい解っている」
間合いを空けて、グランは言葉を続ける。
「だから、どうした。王が国のために闘って、何が悪いッ!!」
「否、お前は正しいさ。王が死ねば、国も滅ぶ。この国を活かすも、殺すのも……お前、次第だッ!!」
グランが会話に乗ってくれたお陰で、時間を稼ぐことができた。竜笛の音を聴きつけて、カイラートの愛騎竜であるヴァルキリーが到着した。甲高い飛竜の咆哮が、風と共にグランを打ちつける。不意を突かれて、態勢を崩している内に、カイラートはヴァルキリーに騎乗した。
これで圧倒的に、カイラートが有利になった。
「知った風な口を、聞くなッ!!」
グランの持つ双剣の周囲を、王鱗紋が包み込む。
「すでに、戴冠は済んでいたのか……」
非常に、厄介な事態である。
王位を継ぐ時は、大抵の国は王鱗紋も同時に継承する。
王鱗紋は聖地アリアドスに入る鍵ではあるが、その役目はそれだけではない。王鱗紋を起動するだけで、身体能力の向上と魔力を増加させる。集団である場合は、特定の条件を満たせば家臣の力すらも増加させる。この国の現状を考えれば、脅威になるのはグランだけではあるのだが、それでも戦局が不利に傾く可能性は大いにある。
「双竜剣で、今から斬り裂いてやる。俺を怒らせた事を、後悔しやがれッ!!」
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