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紅桜歌~獣人の歌と千年の巫女~  作者: 81 MONSTER
第1章《死を率いし者》
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第3節【幽閉】


何処(どこ)へ行かれるのですか?」



 不意に、背後から声がした。良く知る者の声だ。


 長い銀髪を後ろに束ねたゾメストイが、こちらを見ていた。前方からは重装歩兵(じゅうそうほへい)の大隊が、刻一刻(こくいっこく)と押し寄せている。

 後方からは魔導騎士団の中隊が迫っている。鉄壁の包囲網(ほういもう)が、逃げ場を完全に遮断(しゃだん)している。ゾメストイの号令で、エルナスの命は容易(ようい)に奪える状況であった。最早(もはや)、処刑を待つことしかできない。



 けれど懸命に生き残る策を模索(もさく)した。それは暗闇の中を、闇雲に転げ回る行為に等しい。

 無様(ぶざま)に命乞いをしたところで、助かるはずもない。



何故(なぜ)、裏切った……ゾメストイ。妹を選定に差し出すのが、そんなに気に喰わないか?」


 謀反(むほん)を起こすとしたら、それ以外の理由は考えられない。ゾメストイの表情には、何の変化も見られなかった。



陛下(へいか)をこの手に掛けるのは大変、心苦しいのですが……(いた)し方が、ありません。ですが、友としての情けがあります」


 こちらの質問に答えるつもりはないのか、芝居が掛かった口調で(のたま)うが胸中(きょうちゅう)までは(うかが)えない。



 謀反(むほん)を起こして何の罪もない民を虐殺(ぎゃくさつ)しておいて、情けも何もなかった。

 けれどもエルナスには、その薄氷うすらいにも等しき『情け』に(すが)る以外の手段みちはなかった。誰に軽蔑(けいべつ)されようとも、命が助かるのであれば何でもしていた。無様(ぶざま)醜悪(しゅうあく)であっても、生き延びるつもりでいた。



「まずは皇剣(おうけん)を起動する王鱗紋(おうりんもん)を、この私に継承して貰えますか?」



 何代にも渡って伝わってきた皇剣は、皇位継承(おういけいしょう)と共に(ゆだ)ねられてきた帝国の象徴(しょうちょう)のような物だ。その材質には、この世で最も堅いドラグナー鉱石が用いられている。皇剣の持つ王鱗紋(おうりんもん)は、聖地アリアドスに入るための鍵でもある。


 ゾメストイの狙いが、理解わかり掛けてきた。ならばまだ、交渉の糸口が()るはずだ。

 決して王鱗紋(おうりんもん)を、継承させてはならない。そうすれば、その場で殺されるのは明白だ。


 ならば少しでも時を稼ぐことが、生き長らえる唯一の策となるだろう。逃げ回っている時に、救命要請(きゅめいようせい)のための術を放っている。救援には、早くとも数日の時を(よう)するだろう。



 それまで何とか、()えなければならない。


「此の事を、エアリゼは知っているのか?」



 エアリゼとは、ゾメストイの妹の名だ。

 先遣(せんけん)の任で、アクアグランデに(おもむ)いている。

 ゾメストイに取って、たった一人の肉親であるエアリゼは何よりも大切な存在である。そのエアリゼの命を救うために、ゾメストイは国を裏切ったのだ。決して()められたことではないが、逆の立場ならば同じ事をしていたかも知れない。



貴方(あなた)に知る必要はありません。三日の猶予(ゆうよ)を与えます。それまでに、生きるか死ぬのかを選んで下さい」


 底なしに昏い瞳が、冷やかにこちらを見ていた。

 その双眸(そうぼう)の奥には一体、如何(いか)なる闇が潜んでいると言うのだろう。眼前に佇む男はすでに、自分のる友ではない。


陛下(へいか)を、お連れしろ。呉々(くれぐれ)も、鄭重ていちょうに扱うんだ」


 今は只、わずかに長らえた命の使い道を思案する事しかできなかった。



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