-第91話-
『山口くん調子はどう?』
テストを2日前に控えた土曜日の夜、今日も学校終わり次第安芸さんと勉強をしてきた。
前までと変わったところといえば安芸さんとやっている教科が数学から英語になったことくらいだろうか。
まあそんなわけだから勉強会の時にでも聞いてくれればいいわけで、安芸さんが俺の進捗を確認する必要はないと思うのだが、どんな返信をご所望なのだろうか。
『まあ、昨日までと同じくらいは頑張ってるよ』
『そう、全教科一周は終わりそう?』
『まあちょっと厳しいかもしれないけど、頑張ればなんとかって感じかな』
『そっか、試験前までに一通り終わらせられたら安心だけど、体調崩しちゃったら元も子もないし終わらないなら仕方ないよ。あんま堂々といえたことじゃないけど前日に一夜漬けすればなんとかなるよ』
一夜漬けかーー俺も中学一の一学期はやっていたけど、そんなワードを安芸さんから聞くとは思っていなかった。
てっきり普段の授業を聞いて家に帰ったら復習予習を済ませているからテスト勉強なんて必要ないとか言い出す人種かと思っていた。
『安芸さんも一夜漬けするのか?』
『うーん、私はあんましないかな。でもあんまわからない教科があるとついついしちゃうかな。姫芽とかは大体一夜漬けらしいけど……』
安芸さんの理解が足りないというのは教科書暗唱できないとかそういう領域の話なのだろう。
やっぱり安芸さんがテスト勉強している様子が思い浮かばない。
でもそれよりももっと興味を惹かれることがあった。
姫芽さんは大体一夜漬けだって?
確か安芸さんの話によると学年十位以内には入っているらしいが、それが一夜漬けの賜物だというのか……。
普段頭の悪そうな大きなツインテールを揺らして暮らしているのに、成績がトップクラスに良いというだけで驚きしか出てこないのだが、それが前日に叩き込んだだけというのならあまりにも残酷過ぎる。
今すぐ全国の真面目な高校生に謝ってきてほしい。ていうかそれで良いなら俺今こんなに苦労して勉強してる意味ないじゃん。
まあ実際そんな勉強で学年トップにいられるのは彼女の才能なわけだから、そんな虫のいい話はないわけだけど。
『そっか、そういうやり方もあるのか。頭の片隅にでも置いておくよ』
『でもできるならして欲しくないかな。姫芽テスト期間中はずっと死にそうな顔してるから』
一夜漬けの弊害というのだろうか。
そんな顔色を浮かべている姫芽さんも是非眺めてみたいものだ。でも安芸さんに迷惑かけたくないし一夜漬けはやめておこう。
安芸さんからの返信を待っている間に姫芽さんとのトーク画面を開いて文字を打つか本気で迷っていたのは、また別の話だ。
『わかった、ひとまず目の前の教材を片付ける方針で行こうと思う』
『うん、よかった、勉強するモチベーションあるんだね』
『今日も勉強会したじゃん。なんでそんな心配を?』
『テスト前になると勉強を急に辞めちゃう人がいるって聞いたから心配になってね』
おそらくテスト前という状況と自分の学習への理解度からくる現実逃避願望によるものだろう。
まあ俺の場合はテスト前に勉強するなんてことはなかったから燃え尽きるなんてことはなかったと思うし、そんな心配は杞憂だったと思う。
『それでここからが本題なんだけど、明日ってどうする?』




