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--第86話-恋人

こんな安芸さんをみたのは初めてだ。今まで2人でいるところを他人に見られたりとハプニングはあったものの、彼女は顔色ひとつかえず乗り越えてきていた。


しかし今回結奈に一言言われただけなのにそんな顔を浮かべていた。


ひょっとして結奈に俺とのことを恋人と言われたのがそんなに嫌だったのだろうか。


ただの「友達」である俺との関係を邪推されたのではそう思うのも無理はないのかもしれない。俺との関係に関する話だ。


俺が助け舟を出すのが最適解なのかもしれない。


「おい、結奈。安芸さんの顔見てみろよ。結奈のせいでせっかく学年一位に安芸さんに勉強教えてもらう機会なくなったらどうしてくれるんだよ」


俺はいつもよりトーンを1つ、2つほど落として結奈に告げた。


「お兄ちゃん、どうしたの……なんか怖いよ」


「なんか、ごめんな。 でも安芸さんは好意で俺に教えてくれてるんだから、困らせるようなことはしないでな」


「本当に恋人じゃないんだよね」


結奈が分かりきっている質問を再び口にした。


「当たり前だろ。そもそも初めて話したのが2週間前とかだし」


俺はそれまで安芸さんのことを天上の人と思っていたし、関わることもないと思っていた。そんな彼女からのお願いを叶えることはあっても、恋人になることなんて頼まれでもしないとならないだろう。


「そっか、普段からこんなことしてるの?」


「そんなわけないだろ、さっきも言ったろ?俺と安芸さんは知り合いだ……」


視界の端にそんな俺の言葉を聞いた安芸さんが映った。


さっき泣きそうな顔をしていた彼女も立ちなおりつつあったのだが、またその顔は暗くなったので俺は結奈へ言葉を投げかけるのを少しやめた。


安芸さんは自分は友達と思っているのに、俺からは知り合いと言われるのが癪に触るのだろう。


さっき俺が考えていたことと正反対だけど、何か似たようなものを感じる。


「いや、友達……でいいんだよな?」


「なんでお兄ちゃん疑問系なの……」


俺が友達と言い直した瞬間安芸さんの顔は晴れたのだが、念のためもう一度確認しておこう。


「うん、友達って私は思ってるってさっき言ったっじゃん。もう、恥ずかしいこともう一回言わせないでよ」


「えー、でも普通友達ならそんなことしなくない?」


「そうだったな。友達だからこんな恥ずかしいことはいつもしてないよ。安芸さんも勉強嫌いの俺のやる気を出すために奮発してくれたんだろ。俺だって男だからな」


男だから女の子から頭を撫でられて全員が全員無条件に嬉しいというわけではないだろう。


でも安芸さんの好意を責めるわけにはいかないし、結奈を誤魔化すのにはこれくらいの嘘でちょうどいいのだろう。


「そっか、そうだよね。たしかにお兄ちゃんの勉強しなさっぷりも相当なものだし」


結奈も俺のことをよく見ているのか、逆にこういう言い訳が通りやすいのだろうか。


「そもそもなんでそんなこと聞くんだよ。別に安芸さんと俺が何してようと関係ないんじゃないか?」


「そんなの言えないよ......」


結奈は恥ずかしそうに呟く。


「安芸さんに取られちゃうんじゃないかって......」


結奈の言葉は聞こえなかったが、どこか不快にさせてしまった節があったのだろう。


それだったら結奈にはもう俺たちの状況を見せる訳にはいかない。


俺は勉強を教えて貰ってる以上安芸さんと関わらないなんてことは無理な話だし。


「結奈は下戻ってなよ」

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