-第85話-友達
「お兄ちゃん!」
今まで俺のベットに寝転んで静かにしていた結奈が突然素っ頓狂な声を出してきた。
「なんだよ、結奈。今俺は勉強してるんだけど」
「安芸さんとは勉強を教えてもらってるだけだよね?」
この状況のどこをどう見たら俺と安芸さんが勉強以外をしているように見えるんだろうか。
「それ以外に何があるんだよ」
「えっと、お兄ちゃんと安芸さんはお友達ってことでいいんだよね」
結奈はさっきから何を言っているんだろうか。彼女の意図がさっぱりわからない。
「じゃあ、安芸さん。お兄ちゃんとは友達なんだよね?」
俺から満足いく回答を得られなかったからか、結奈の銃口は安芸さんの方を向いたようだ。
「うーん、山口くんがどう思ってるかは置いといて、私はよく遊ぶし友達だと思っているよ」
何も恥ずかしがる様子も見せず安芸さんはそう言った。
もちろん安芸さんの言うようによく一緒に出かけているし、タメ口で喋っているし、RINEも持っているしで要所要所を取ってみれば友達という関係のように思えるだろう。
でも俺たちの関係の根底にあるのは安芸さんからのお願いであり、安芸さんのお願いを叶えるための過程として今の関係があるのだ。
だから本当に友達と呼んでいいものなのかわからなかった。
それに俺が安芸さんのことを友達と思っていても、今までの経験上そんな性格ではないと信じているが、彼女が俺のことを自分の欲求を満たしてくれる都合の良いものくらいにしか思っていなかった場合、人気者である彼女のことを一歩的に友達だと思っている完全に痛いやつだ。
でも今の言葉でお互いに友達と相手のことを認識していることが確認できたから、これからは安芸さんを友達として幸せにすると言うことでいいのだろうか。
「ふーん、でも友達なら頭撫でたりしないんじゃないの?」
「人を褒めるときに頭を撫でるのもおかしなことじゃないと思うけどな。結奈ちゃんもちっちゃい子とか「よく出来たねー」にって頭撫でない?」
やはり安芸さんは俺のことを幼児くらいにしか思っていなかったのか……。
自分の勉学の理解度がそのレベルとはいえその扱いには少し凹まざるをえない。
「でもお兄ちゃんはおっきいよ?」
「今のはあくまで例えのつもりだったんだけどな。ちっちゃい子くらいしか褒めることってなくない?」
「そんなことはないと思いますけど......」
さっきから何がしたいのか分からない結奈だったが、安芸さんの発言に対する感想は同じなようだ。
「逆に結奈ちゃん最近誰かを褒めたことある?」
「え、言われてみれば......」
何納得してるんだよ。意味わからないこと言ってるのに無駄に頭と要領がいいおかげで安芸さんの意見が通りかかってしまっている。
「で、でも褒め方が高校生にやるものじゃないってことはわかりますよ。普通に凄いねで良いじゃないですか」
「それじゃあ特別感がないじゃない。だってめちゃくちゃ褒められた方が気分も良くなって勉強やってくれるかなって.......」
この頭を撫でてくるのは不器用ながらも俺のためだったみたいだ。
安芸さんは常に人より上に立っているから、人を褒める機会がないから分からないのかもしれないな。
「たしかに一理あるような気もしますけど......友達のライン超えてるような気もしますよ」
「えっ、親子に見えちゃう?」
「いや、どっちかっていうと恋人同士ですかね」
結奈の言葉を聞いた安芸さんはその言葉を予想していなかったのか珍しく耳まで赤く染め俯きながら呟いた。
「そんなことないよ.......私はただ勉強した山口くんを褒めたかっただけなのに......」
仲良くなったはずの結奈に追い詰められた安芸さんはいつもの完璧美人なイメージとは異なり今にも泣き出しそうだった。




