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-第84話-譲り合い

「ほら、座ってくれよ」


「はーい。わざわざ広げてくれてありがとね」


俺が促すと3人は各々その場に腰を下ろした。


大して考えずに用意してしまっていたが、4人で座るとこの机だと狭いな。


俺の隣に座ってる安芸さんの腕と俺の腕が時折接触していてどうしても気になってしまう。


「山口くん、この机ちょっと狭くない?」


安芸さんも俺と同じことを感じていたようで、一辺が1メートルにも満たない手元にある机を指さして言った。


「地面でやるよりはいいかなと思ったんだが、いいものがなくてな」


「私は全然向こうでいいよ。姫芽と梨花はこの机でそれぞれの勉強しててもらって」


安芸さんは視線を真下から少し上に逸らし、俺の勉強机を指した。


「でもあれだと椅子ひとつしかないし」


「私たって教えるから全然いいよ。ほら、行こ」


安芸さんはそう言っているものの大企業の御令嬢を立たせるなど、後々どんなことされるかわかったもんじゃない。


俺が立ちながら勉強するというのはおかしな話だが、それが最善の選択だろう。


もしこのままでいいと言ったら、それはそれで安芸さんと密着していたい変態みたいに映ってしまうからな。


「そうだな。そうするか」


「あれ?山口くん座らないの?」


安芸さんは俺がなかなか座らないことを不思議に思ったのかそう聞いてきた。


「安芸さんを立たせておくのは、ちょっとあれだからなな。座ってくれよ」


「いやいや、山口くん座ってよ」


このまま譲り合いが続いても埒があかないので、なんとか手を打ちたいのだが、安芸さんに自身の立場のことを言っても絶対に納得して貰えないので、少し視点を変えてみることにした。


「人を招いて立たせるって言うのもなんか性格悪いだろ」


「ううん、立ちながら勉強教えるってなんか家庭教師っぽくて憧れちゃうし、山口くん早く座ってよ。勉強する時間なくなっちゃうよ」


「そっか、わかった。じゃあお言葉に甘えて……」


「ふふ、何それ。そもそも山口くんの席じゃん」


安芸さんが可笑しそうに笑いながら呟く。


「まあ、そうだけどな。座りたくなったらいつでも言ってくれよ。俺は女の子をいつまでも立たせておく畜生じゃないからな」


はいはいと若干このやりとりが面倒くさくなったのか、引き気味にだが返事をしてくれた。


「それで昨日で確か中学校の範囲が終わったんだっけ?」


安芸さんは自分の鞄から相変わらず太い教科書を何冊も取り出しながら俺に聞いてくる。


「ああ、終わったはずだ」


「山口くん、すごいね!中学校の範囲が2日で終わっちゃうなんて」


「いや、それは安芸さんが教えてくれてるからだし、そもそも中学生がやるところだからな……」


「いやいや、山口くんの知識レベルは中学生と同じなのに、中学生が3年かけてやる範囲を2日で理解するってのはすごいって」


安芸さんは褒めてるのか貶しているのかわからない言葉で俺を労った。


「そんなもんなのか……」


「うんうん、そんなもんなんだよ。えらいえらい」


安芸さんが昨日と同じように子供を褒めて伸ばすように俺の頭を撫でてきた。


昨日は遠くから姫芽さんたちがこっちを見張ってたとはいえ、安芸さんと2人きりだったが、今日は姫芽さんと梨花さんに加え、家族である結奈も同じ部屋にいるので正直恥ずかしいし撫でるのはやめて欲しい。


まあ、頑張りが認められているような気がして悪い気は全くしないんだけどな。

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