-第81話-解散
安芸さんほどの人が変わるところなんて俺には思いつかないけど、きっと彼女なりに思うところがあるのだろう。
やっぱり安芸さんから「お願い」された時に思った、俺への告白という可能性は微塵もなかったということだ。
そういう勘違いをしていたことが少し慚愧に堪える。
俺が最近勉強を始めて代わってるように見えているのは、安芸さんの「お願い」を叶えるためであり、その俺の同じようにということは安芸さんも誰かのためなんだろか。
「なるほどな。別に嫌なら構わないが、最初に何を言おうとしたのか教えてくれないか」
「いや、今はまだその時じゃないって感じかな。せっかく興味持ってもらったのにごめんね」
安芸さんは何故か申し訳なさそうに俯いきながら言った。
「全然大丈夫だ。少しでも話してくれてありがとな。」
「私も山口くんに無茶なお願いをしているわけだし、これくらいは話しておかないとなって」
安芸さんも初めて2人きりになった今日、歩み寄ってくれた。
俺も安芸さんと心の距離を縮めて安芸さんのことを知るために、アプローチをかけてみてもいいのかもしれない。
「そうだ、明日ってどうするんだ?そろそろ今日の勉強会も終わりだろ」
「うーんそうだな、いつもみたいに家帰ってから決めようと思ってたけど……明日もここかな?」
安芸さんはさっきの女子生徒たちが勝手にいなくなったものだと思っているのだったな。
でも実際彼女たちを追い払って、俺と安芸さんが2人でいるところを目撃されるという窮地から救ってくれたのだ。
やっぱり公共の場所で安芸さんと一緒に行動することはリスクがつきものだ。
安芸さんがいうようにここでやるより、場所を変える必要があるような気がする。
「明日なんだけど、俺の家なんてどうだ?」
「え……私のこと誘ってる?」
「いや、安芸さんと密室で2人きりになりたいんなんて魂胆はないぞ。ほら、さっきみたいに人に見つかる可能性もないしな」
紛れもない本心だった。
でも今日みたいになにか予想していないことが起きるかもしれないし、実際今日も安芸さんのことを陰ながら見守っていたわけだし、明日もきっと向かいの家から見張ってたり、俺の家の敷地内に隠れてたりするかもしれない。
「あとまた昨日みたいに梨花さんたちも呼ぼっか。実際2人きりの今日も昨日もそんなにうるささ変わらなかっただろ?」
「確かに……そうだね。明日は4人でやろっか。山口くんのおうち本当にお邪魔してもいいの?ご両親は?」
「うーん、お母さんはいると思うけど。気にしなくていいと思うぞ。あと結奈もいるかな」
「え、結奈ちゃんいるの?よし、明日は山口くんの家に決定だね」
結奈がいると俺が伝えた瞬間安芸さんは嬉しそうに一気に俺の誘いに乗り気になった。
「結奈に邪魔されなきゃいいんだけどな……」
「結奈ちゃんも一緒にやりたい!山口家2人に教えちゃうぞ」
「いや、俺と違って結奈は勉強できるぞ」
「え、そうなの……」
安芸さんは悲しそうに俯いた。
すっかり仲良くなっていたし、教えたかったんだろうか。
「まあ、いいや。今日はこの辺りにしようか」
「ああ、今日もありがとな」
「うん、明日も頑張ろうね。あ、家帰ってからちゃんとやってね」
「もちろん、安芸さんに教えてもらってるわけだし今回のテストは巻き返すって決めたからな」
約束だよとウインクして立ち上がった安芸さんの方を見ると、更に奥の方で姫芽さんたちが動いているのが見えた。
きっと安芸さんと偶然を装って一緒に帰るつもりなんだろう。きっと彼女たちも今日のことがあって警戒心も強くなってるはずだからな。
女の子の遊んだ後は男子送るなんて言う定番イベントがあるらしいが、彼女たちに帰り道は任せておけば大丈夫だし俺が送る必要なんて無いはずだ。
そう思って俺は家に向かって歩き始めた。




